Turn54.姫『剣聖』

 お城から、勇者の依り代となる志願者を募る御布令が出てから数日が経った──。

 世界各国から志願の声が上がり──この日、選ばれた依り代の志願者たちはお城に招かれ、集結することとなる。


 玉座の間の扉が開き、兵士が声を上げる。

「剣聖アルギバー・サンドロン様がお越しになられました!」

 広間に響き渡ったその声に、従者たちは驚いたようにおおっというざわめく。

 兵士に続いて玉座の間に姿を現したのは、エメラルドグリーンに煌めいた強靭な鎧に身を包んだ短髪ツンツン頭の少年──。

 アルギバーは手にした大剣を肩に背負うと、フンッと鼻を鳴らした。

 そんな彼に対して、兵たちからは羨望の眼差しが送られる。


「あの方が、勇者様が一目置いたという剣聖様ですね」

 お姫様の一従者である、諜報員のピピリ・ガーデンも好奇な目をアルギバーへと送る。

 一見して、ただド派手な格好をしたただの少年であるが、その落ち着きようにはどことなく風格があった。

「ええ、元気そうで何よりですわ」

「相変わらず、ケンケンしてますね……」

 お姫様とテラが知ったような口振りに、ピピリは思わず目を丸くしてしまう。

「お二人は、アルギバー様ともお知り合いなのですかね?」

「知り合いと言えば、まぁ……」

 テラの沸切らない返事に、お姫様は微笑んだ。

「ふふ……。テラ様は、アルギバー様と仲が宜しいですものね」

「や、やめてくださいよ。仲なんて良くないですよ、あんなつっけんどんな奴とは!」

 意外にも親しげなお姫様とテラの会話についていけず、ピピリはポカンと口を開けて置いてけぼりになってしまうのだった。

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