Turn53.勇者『お誘い』
「ねぇ、君……」
休み時間に廊下を歩いていた僕は、声を掛けられて振り向いた。
背の低い金髪の少年が、こちらに笑顔を浮かべながら立っていた。
「……誰?」
──誰かは分からない。
同じクラスに居たかどうかも、関わりがない子なのので分からない。もしかしたら、隣のクラスの子かもしれないし上級生の子かもしれない。
ただそれくらいの認識で、僕は首を傾げた。
そんな僕の素っ気ない反応に、少年は苦笑いを浮かべた。
「やだなぁ、三組の不知火倫太だよ」
「ああ……」と名乗られたが、別のクラスであれば尚更知るわけもない。
まだ転校したてで、同じクラスの子の顔と名前すら怪しい僕からすれば言われてもピンと来なかった。
「君、転校生の子だよね?」
上着のポケットに両手を突っ込んだ金髪の少年──不知火とはなんの接点もないので、いきなり話し掛けられたことで少し警戒してしまう。
「そうだけど……なにか?」
僕が尋ねると、不知火は振り向いて廊下の後ろを顎をシャクってみせた。女生徒が二人──目が合うと、手を振ってきた。
「彼女らの希望でね……。君を誘って欲しいそうなんだ。週末も連休でキャンプに行く予定なんだけれど、君もどうかな?」
「え、キャンプ……?」
不意なお誘いであった。
同級生とはいえ、親しくもない相手といきなりキャンプだなんてかなりハードルが高いように思えた。
この不知火という少年も、女生徒たちのお願いをよく承諾したものである。
驚く僕の反応を見て、不知火はそっぽを向いて頬を掻いた。
「……別に、迷惑なら断ってくれて構わないよ。俺も彼女らに声を掛けて来いって頼まれただけだからさ」
「うーん……」
どう答えたら良いものか、僕は困ってしまった。
正直なところ、キャンプというのに惹かれる気持ちもあった。唯一の友人であった恵が行方を眩ませてしまったことから、僕としても交友関係を広げていきたいという思いもあった。
それに、単純に予定も立っていないということから参加しても良いかな、という気持ちにもなっていた。
──しかし、不知火としてはどういう気持ちなのだろう。声を掛けてくれてはいるが、内輪グループのキャンプの中に全く無関係な僕が飛び入れば面白く思わないのではないだろうか。
体裁を取り繕うためだけのお誘いで、それを受けるというのはそれで空気が読めていない気もしてしまう──。
「なんか予定でもあるの?」
僕が黙ってあれこれ悩んでいると、答えを急かしでもするかのように不知火が尋ねてきた。
「いや、別にないけど……」
「それなら、是非、参加してよ。決まりだ!」
「え、あ、うん……」
まるで僕にそうして欲しいかのようだ。不知火に推されて、二つ返事で頷いてしまう。
「よしっ! じゃあ、決まりだ! 宜しくね!」
不知火は笑顔を浮かべると、手を振り二人の女生徒の元へと走って行ってしまった。
そんな不知火の背中を見送りながら、僕は溜め息を吐いたのだった。
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