Turn52.姫『中の人』
「勇者様が、この世界に……お戻りになられるのね……」
玉座に座り直しながら胸に手を当てたお姫様は、感慨深く呟いた。
「あの、お姫様……」
そんなお姫様を前に、テラにも勇者について言いたいことがあった──。
「私、勇者様に窮地を救ってもらいました。勇者様は……本当に素晴らしいお方です」
テラの口からお褒めの言葉を頂き、お姫様はなんだか自分のことのように嬉しく思えた。
次いで、テラはここまで自分を連れて来てくれた幅広の中年男──ピピリに謝意を表した。
「それに、ピピリ様も……私をここに導いてくださって、ありがとう御座います」
声を封じられ呪文を唱えることができなくなった大魔導師──そんな彼女を救い出してくれたのは勇者であった。
同様に、ピピリもお姫様から命を受け、テラの行方を捜していた。もう少し早く辿り着いていたならば、もしかしたら勇者の手を煩わせることなく、ピピリがそこで救出に一役買っていたかもしれない。
「構わないのね。無事でなによりだったのね」
ピピリは自身の弛んだ顎の肉を擦りながら、笑顔を浮かべた。
「彼女も、勇者様のためならば命を投げ打つ覚悟がある一人ですからね。是非とも、仲良くして上げてくださいまし」
次いで、お姫様も微笑んだ
──彼女?
お姫様がピピリを指したその言葉が、テラはどうにも気になってしまう。
「女の方、なのですか?」
どう見ても、テラの瞳には中年のおじさんのように写ってならない。
ピピリ自身も、そのことに気が付いたようだ。
「ああ……」とピピリは頷くと、自身の顔に手を当てた。そして──ベリベリっと顔の皮膚を剥ぎ出した。
「なっ、なにを……!?」
テラは驚きの余りピピリを止めようとしたが、また別のことで驚かされてしまう。
剥いだ皮と、パッと脱ぎ捨てた成人男性の衣服の中から姿を現したのは──小さな女の子であった。
「失礼致しましたね! すっかり馴染んでしまっていて、変装を解くのを忘れていましたのね。改めまして、ピピリ・ガーデンと申しますね。以後、お見知りおきを!」
両手を横に胸を張るピピリの風貌は奇抜であった。ピンク色の髪にハート型の瞳──衣服のあちこちにはフルーツが描かれたワッペンが貼り付けられていて目を見張る。
まさか、あんな恰幅の良い男の中からこのような奇抜な女の子が出て来るとは思わず、テラは硬直してしまった。
「ふふ」と、そんなテラの反応を見て、お姫様は微笑んだものだ。
「この子の変装術は一流ですから、テラ様も欺かれてしまったようですわね。……ご覧の通り、少し変わった見た目ではありますが、根は良い子ですので宜しくお願い致しますね」
「変わってるって何ですかー。可愛いじゃないですかー!」
お姫様からの紹介の言葉に、ピピリは不服そうにプゥーッと頬を膨らませた。
微塵もピピリが女の子であることに気が付かなかったテラは、ただただ唖然とするばかりであった。
お姫様の言う通り、ピピリは一流の変装術を持っているのだろう。少しも疑いを抱くことはなかった。
「私も、勇者様の依り代としてこの御身を捧げたいのですが、可能ですかね?」
そんなピピリからの、依り代への志願──。
「勿論。貴方のように秀でた能力を持つものが、勇者様の依り代として必要ですから」
テラが頷くと、ピピリは嬉しそうに微笑んだものである。
──こうして、勇者の依り代となる人物が一人決したわけだが──。
やがて、世界各国から勇者の依り代となる志願者たちが続々とこのお城に集まってくるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます