Chapter3【十三人の依り代たち】
Turn51.姫『勇者の器となる人々』
異世界のお城の中──お姫様は、自身の望みを大魔導師・テラに伝え、尋ねた。
「勇者様に、この世界にお戻り頂きたいのですが……何か方法はございますでしょうか?」
すると、テラは顔を伏せ、首を左右に振るった。
「現状として、すぐに勇者様をこの世界へ呼び戻すことは難しいでしょう。私も、そのような魔法は知りませんし、そうした術も存在しているようには思えません」
「そう……ですか……」
今度はお姫様の方が顔を伏せてしまう。
「しかし……」と、テラはお姫様を励ますように言葉を続けた。
「この世界で唯一、魔王に抗うことができるのは勇者様のお力だけなのです。勇者様の存在は魔の者を退け、そのお力は何人にも際限されることなく魔族に大いなるダメージを与えることでしょう」
「勇者様は、本当に凄い方なのですね……」
テラの言葉で、お姫様は勇者の偉大さを改めて実感した。
お姫様が慕っている勇者が、この世界においての唯一の希望だと思うと──お姫様は何だかそれが誇らしく思えて元気付けられたものである。
お姫様の表情が和らいだのを見て、テラの心も少し揺らいだようである。さらにテラは言い難そうにしながらも、こんなことを口にし始めた。
「勇者様をこの世界に呼び戻すことは現状としてはできません。……ですが、この世界に意識だけを持ってくることはできるかもしれません」
「そ、それは、どういうことですか!?」
お姫様は顔を上げ、テラに食い付いた。
「依り代となる者を用意して、その身を勇者様に捧げてもらうのです。そうすれば、あるいはその体を媒介にして、勇者様の精神を異世界からこちらの世界に引っ張ってくることができるかもしれません」
「まぁ! そんなことが……!」
急に光明が差し、お姫様は瞳を輝かせた。
ところが、反対に言い出しっぺであるテラの方は暗い表情に染まってしまう。
「……ただ、その身を勇者様に捧げる……というのですから、相当に覚悟のある者でなければなりません。下手をすれば、その者の意識は消え、完全に勇者様の一部となって生きていくことになるかもしれないのですから……」
確かにそうなると、人一人の命を犠牲にして勇者をこの世界に降臨させるも同罪のことである。テラが躊躇していることにも頷けた。
「それに……魔王と戦おうというのですから、ある程度の訓練を積んだものでないと勇者様のお力に堪えられない可能性もあります。勇者様自体も、扱い難い肉体であれば満足に動くことも叶わなくなってしまうでしょう」
隙ができればその分、魔物から攻撃を受けるリスクが高くなる。そうして勇者の生命が失われてしまえば、今度こそ完全に希望が断たれてしまうことになるだろう──。
「なるほど……」
お姫様はテラの一頻りの説明に納得して頷いたものである。
背後に控えている側近の兵士たちに、お姫様は声を上げた。
「すぐに御布令出して下さい。世界中から有志の者を募るのです!」
「はっ!」
お姫様から命令を受けた兵士たちは慌しく部屋を飛び出して行った。
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