Turn50.大魔導師『勇者様を異世界へ』

 そこは、かつてはお姫様の父上──国王が治めていた国であった。ところが魔族の侵略により国は滅ぼされ、国王や大半の兵も生命を失ってしまった。

 そんな故郷の国に、お姫様は帰還していた。

 城の中、派遣していた家来の帰りを待ち侘びた。


「お姫様」

 声を掛けられて振り向くと、そこには横に幅広い男が深々と頭を下げていた。渦を巻いた口髭が特徴的なその男の姿を見て、お姫様はホッと安心したように息を吐いた。

「ピピリ・ガーデン。ただ今、戻りましたね」

「ご苦労様です」

 お姫様の労いの言葉に、感極まったピピリは身を震わせた。余程の苦労があったのだろう。ピピリのその瞳には、涙が浮かんでいた。

「勿体無いお言葉ですのね。魔獣に追われたり、底なし沼に足を取られたりと大変でしたのね」

「それは、大変でしたね……」

 唾を飛ばすピピリに、お姫様は思わず苦笑いを浮かべたものである。


「それで、どうでしたか?」

「ええ、勿論。お連れしましたのね」

「そうですか!」

 お姫様は嬉しそうに手を叩いた。

「この世界から失われた勇者様を、唯一引き戻せるかも知れない人物ですからね。……なかなか足取りを掴めませんでしたが、なんとか見付けることができましたのね」

 誇らしげに胸を張ったピピリは、背後の扉を手で差した。


 ゆっくりと玉座に座るお姫様に向かって歩いてきたのは──魔導具に身を包んだ少女である。

「お久し振りですわね、テラ様……」

 お姫様が笑顔を向けた少女──テラ・ロムロ・ルーセン──この世界における高位の魔導師であった。


「異世界へと飛ばされた勇者様を呼び戻すために、どうぞ私たちにお力をお貸し下さい」

 お姫様は頼み込むように、テラに向かって丁寧に頭を下げた。

 そんなお姫様に、テラは手を上げる。

「表を上げてください」

 凛と澄んだ声でテラは言った。

 レイリーが倒れたことにより、彼女の喉を封じていた魔法も解けたのである。

 テラは再び、声を取り戻していた。


「私も、勇者様に助けられた身……。勇者様のために、精一杯に尽くさせてもらいますわ」

「ありがとうございます。テラ様、宜しくお願いします!」

 テラはニコリと微笑み、お姫様と協力を固く誓い合ったのであった。

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