Turn49.勇者『残されたひとり』
目を開けると──夜が明けていた。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
三階の教室の中、僕は一人──暖かな毛布の中に包まっていた。
隣には先程まで居た恵の姿はなく、スペースが空いていた。それでもまだ彼女の温もりは残っている。
僕は立ち上がり、教室の中を見回した。
廊下を出て、校舎の中を捜し回る──。
それでも、恵の姿を見付けることはできなかった。
これを期に、恵は忽然と姿を消してしまった。そして、この世界に居る僕たちの前に姿を現すことはなかった。
学校では、大きな騒ぎになったものである。
侵入者があった件もそうだけれど、優等生であった恵が失踪してしまったのだ。何らかの事件に巻き込まれたのではないかと、警察までもが動いた。
──しかし、恵の行方どころか足取りすら掴むことはできなかった。
教室の席──僕は空いた隣のその席に目を向けた。
──異世界の彼女が救われたことにより、この世界での彼女の役目は終わってしまったのだろう。
なんだか物悲しい気持ちもあったけれど、ここに恵が存在していないということは異世界の彼女は上手くやっているということではないか。
──悲しむのではない。むしろ、彼女が上手くいったことを喜ばしく思うべきではないのか。
短い間であったが、恵と出会ったこと──彼女と過ごした時間──それらは、僕にとっては掛け替えのないものとなった。
「……おめでとう」
僕は窓の外──空を見上げ、異世界の彼女に届くようにそんな言葉を贈ったのだった。
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