Turn44.異世界の少女『仕掛けられた罠』

 地下道を進んでいたテラの身に、予期せぬ事態が起こる。

 地面に設置されていた何かのスイッチを踏んでしまったようだ。

──カチッ!

 その瞬間、壁の隙間から矢が飛んで来て、テラの太腿を貫いた。

「ンンンゥゥゥッ!」

 テラは悲鳴を上げながら、バランスを崩して床に倒れた。苦悶の表情を浮かべつつ、その矢を足から引き抜いた。

「ンゥンンゥッ!」


 矢を引き抜くと血が噴き出した。どうやら当たりどころが悪く、血管を貫いていたらしい。

 このままでは失血死してしまう──。

「ステマジヘルワン……」

 咄嗟にテラの口から出たのは、以前に勇者から教えてもらった魔法の呪文であった。貫通した手の甲の傷を癒やしたその魔法は、致命傷にも効くかもしれない──。

 試しにやってみたところ途端に血は止まり、みるみる傷口は塞がっていった。


 足は動くだろうか。上げ下げしてみる。

──大丈夫だ。きちんと神経も繋がっているらしい。満足に動かすことができた。


「ンゥ……ンゥ……」

 体を起こし、テラは立ち上がった。

 レイリーに抜け出したことを気付かれる前に、早くこの地下迷宮から逃げ出したいものである。

──しかし、この先にどのような罠が設置されているか分かったものではない。

 一つのトラップに掛かったせいで、進むことを躊躇させられるようになってしまう。

 今はたまたま足だったが──それでも、実際には急所に当たっていたが──この先に、一撃で命を奪うような罠がないとも限らない。


「ンゥンン……」

 立ち止まっている場合ではない。──そんなことはテラ自身も分かっていたが、恐怖心から足を前に動かすことができなくなってしまう。


 そんなテラの耳に、新たな勇者からの声が届いた。

──アロートウィッカバード・セトラー。


 これはきっと、この状況に役立つ呪文の詠唱に違いない。

 テラはその言葉を信じ、すぐさま口に出した。

「アロートウィッカバード・セトラー……」


 すると、通路のあちこちで異変が起こり始める。

 床板が抜け落ち、天井が落下し、隠れていた弓が地面に落下した。

 本来はそこに人が通った時に発動するはずの罠が、次々に誤発して表面に露わになっていく。

 テラが口にしたのは──周辺の罠解除の呪文であったのだ。


 すべてのトラップが解除されたので、テラの中から恐怖心は消えた。再び出口へ向かうため、足を前へと動かして行った。

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