Turn43.勇者『頭に浮かぶ言葉たち』

「はぁ……」

 薄闇の中で、僕はジーッと目の前にあるテーブルや椅子に目を向けていた。その他に、やれることがない。

 隣には恵が居て、僕の肩に頭を乗せながら寝息を立てている。少しでも動けば、その都度、彼女は呻り声を上げて目を覚ましそうになる──。

 だから僕は恵に気を遣って、そのままの体勢で動かずにいた。


 そうしてやることもなくただぼーっとしていると、次々と頭の中に言葉が浮かんできた。

 別に、その言葉自体に意味はないだろう。

 単なる創作で──思い付いた言葉を、僕は自然と口に出していた。


──オルツェーション・アロット。

──ザクトドープス。

──ワオライト・ザギド・ショディショ・ウェイバー。


「……なんだ、これ?」

 よくぞ噛まずに言えたものである。ついつい疑問符を口にしてしまうと、肩に頭を乗せた恵が「うーん……」と呻る。

 寝心地悪そうに眉間に皺を寄せる彼女の表情を見て、僕は慌てて手で自分の口を塞いだ。


──しまった……。


 恵はなかなかに敏感なようだ。少しでも動いたり余計なことを口にすると、それに反応して悶えてしまう。


 そんな最中にも、僕の頭の中にはとある言葉が浮かんできた。

 思い付けば、口に出さずにはいられない──。


「あ、アロートウィッカバード・セトラー」


──僕の言葉を聞いた恵の表情が、次第に穏やかになっていく。

 そして、また静かに寝息を立て始めた。


 彼女を起こさずに済んだので、僕はホッと胸を撫で下ろしたのだった。

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