Turn006.勇者『新たな衝動』
「おい!」
しばらく進んだところで、誰かに後ろから声を掛けられて足を止めた。
振り向いたのと同時に、右頬に激しい痛みが走る。
声を掛けてきた相手に、不意打ちで右頬を殴られてしまった。
「痛っ!」
衝撃で後ろに倒れた僕は、床に尻餅をついた。
理不尽に暴力を振るってきた相手の正体を確かめるべく、僕は視線を相手の顔に向けた。
ニタニタとこちらを見ながら無粋に笑う三人組──不良生徒たちの姿が目に入った。
「え……、何さ?」
知り合いでも友人でも何でもない間柄の三人衆である。どちらかと言えば避けて通っている相手に絡まれたので、状況がイマイチ掴めない僕は困惑したものだ。
──そもそも、何で僕は今、殴られたのだろう。理不尽極まりないことである。
「ちと、金が足りなくてさ。いくらか貸してくんない?」
不良の一人がそんなカツアゲ紛いなことを口にしてきた。
「え、やだよ。お金ないし……」
僕は不良生徒の凄みに動じることもなく、平然と返した。
すると、不良たちは僕が怯んでいないことに驚いたようだ。自分たちがモンスターや化け物とでも思っているのだろうか。仲間内で顔を見合わせて、困ったような顔になっている。
どうやら、それが彼らの常套的な手口なのだろう。
ターゲットを不意打ちで殴って、相手が状況が理解できず混乱して思考が追い付かない間に金品を巻き上げる──そんな腹らしい。
ところが、僕にそんな下賤な戦略が通じなかったので、逆に不良たちは困ったようだ。
お見合いとなり、場には変な空気が流れる。
まぁ、それは、当然のことだ──。
僕は体力だけには自身があった。
初手で殴られて尻餅はついたが、別にそれで恐怖を感じるようなことはない。いざとなれば、この三人組をうち負かせば良い──そんな自身があったのだ。
不良たちからすれば災難である。
たまたま僕のことが目に入ったから鴨として選んだのだろうが、無駄な労力を使う結果となってしまった。
「てめぇ……金を出さねぇつもりか!?」
それでも不良たちは戦意を喪失した訳ではないようだ。
そればかりか、僕の発言でより闘志を燃やしたらしい。指の関節をポキポキと鳴らしながら眉間に皺を寄せ、僕に迫ってきた。
僕からすれば、呆れたものである。自分たちの人数が多いからって、イキっているのだろう。
別に、不良たちから睨まれたからといってどうってことはない。
──しかし、どうしたものか。
不良生徒たちを捩じ伏せることは簡単だろうが、できれば穏便にことを済ませないものである。
かといって、有り金を差し出して頭を下げれば相手は調子に乗るだろう。
目の前の障害にどう対処しようかと頭を悩ませていると──ふと妙な感覚に襲われた。
──割りたい!
その衝動が、突如、押し寄せてくる。
──割らないと!
そんな思いが抑え切れなくなる。
僕は湧き上がってきた感覚に従い、近くにあった廊下と教室との堺にある窓ガラスを──拳で思い切り叩き割った。
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