Turn004.姫『牢獄からの逃走』

お姫様は、目を丸くした。

自分が今、閉じ込められている牢獄の扉が──固く閉ざされていたはずのその扉が、突然ひとりでに開いたからである。


──確かに、扉は施錠されていた。

扉を開けようと、何度も乱暴にガチャガチャと戸を揺らした。それでも、固く閉じた牢獄の扉は微動だにしなかったのである。

それに魔王の幹部が、扉が開かないように呪文を掛けていた。扉に封印が成され、並の術者でも簡単には開けられないようになっていた。

相当にレベルを上げた者でなければ、それを解くことは難しいはずである。


──ところが、何か手違いでもあったのだろうか。

誰も触れてすらいないのに、そんな封印の扉が勝手に開いてたのだ。

二度と日の目を浴びることはできないと絶望に打ちひしがれていたお姫様が、どんなに驚いたことであろうか。

もしかしたら、お姫様の祈りが通じたのかもしれない。

お姫様は天に──神様に、祈りを捧げていた。それに、今はなき勇者様を思い、助けを求めていたところであった。

そんな祈りを聞き届け、神様がその願いを叶えてくれたのかもしれない──。

「勇者様……」

真っ先に、お姫様の頭に浮かんだのは勇者の凛々しい姿であった。

しかし、周囲にモンスターの気配はおろか人の気配すらない。いったい、誰がこの扉を開けてくれたというのか──。


──まぁ何にせよ、このチャンスを逃す手はない。

お姫様は改めて格子の間から周囲の様子を探り、近くに見張りの者がいないことを確認する。

そして、恐る恐る牢獄の扉から出たのだった。


ふと目についたのが、牢獄の扉の鍵穴に刺さっていた短剣である。

──何故、こんなものが刺さっているのだろう?

お姫様は小首を傾げながらも、その短剣を鍵穴から引き抜いて手に取った。

魔王の城の中で丸腰というのはどうにも心許なかったので、身を守る武器にはなるだろう。

お姫様はその短剣を懐に忍ばせた。


周囲を警戒しながら、お姫様は長い廊下を慎重に進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る