Turn003.勇者『求めた教室にあるものは』

職員室を出た僕は、その足で理科室へと向かった。放課後ということもあり、廊下の人影は疎らであった。

擦れ違う同級生と挨拶を交わしながら、僕は教室の前へと戻る。

扉の鍵穴に、借りて来たキーを挿し込む。

時計回りに捻ると、ガチャリと鍵の開く音がした。


手を掛けると、ゆっくりと扉が開いていく──。


理科室の中は、カーテンが閉まっていて薄暗かった。

扉を開けてみたが、別にそこに何があるわけでも誰がいるわけでもない。

──何事かを期待していたのだが、何もない。

そもそも、何かがあるわけもないのである。

「……だから、何なんだってんだ?」

ただ無性に扉の鍵が開けたくてそうしたまでだ。

──何かが起こるわけでもない。


先程までの激しい衝動も、扉を開けたのと同時におさまった。

──本当に何だったのだろう?

僕は首を傾げると、深い溜め息を漏らした。

これまでの苦労は一体何だったのだろう──。

代わりに込み上げてきたのは虚無感だ。

僕は自分自身の行動に、呆れたものである。

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