天海白眉の初恋 5
Aクラス専用にあてがわれた体育館に来た。
大人たちは僕らを見守るという口実で、カメラ越しに監視している。
僕ら四人の超能力のトレーニングに巻き込まれたら危険だからだ。
本気で超能力を発動したら、体育館ごと更地にできる。
だが、監視カメラを見ている信者は、羽黒彦一が洗脳してモニタの前でぐうぐういびきをかいて寝ている。ボクらがトレーニング終わったあとに起きて、「無難にトレーニングをこなした」という記憶が残る手はずだ。
「えーと……ここで何するんだ?」
羽黒彦一がそう尋ねた。
「とりあえず自主練だね。それと合宿の終わり頃、能力の強さをテストすることになる……あ、でも催眠の強さなんてどう図るんだろうね……?」
試験官が催眠されたらどうしようもないんじゃないか? と疑問に思う。
だが、彼は首を横に振った。
「いや、俺は念動力が使えるってことになってるはずだ」
「え?」
「超能力の強さは伝わったんだが、具体的な能力を調べるところで催眠ってバレたらマズいと思って、誤魔化した」
「反則だね、それは……」
「ただ、ここで詳しい検査するとなるとバレる可能性もあるよなぁ。どういう検査するんだ?」
「僕と一緒なら、どれだけの重量を持ち上げられるかとか、火や風みたいな自然現象を起こせるか、そのあたりになるかと思うけど」
「誤魔化しきれるかちょっと不安だな……」
彼は心配そうに顎に手を当てる。
ちょっと良い気味だと思ってしまう。
「嘘をついた罰だね」
「参ったな」
彼の困り顔を眺めていると、悟がやれやれと言わんばかりの声を掛けた。
「まあ良いじゃないですか。みんな、正直に超能力を発動させてるわけじゃないでしょう?」
「あ、それを言うなよ」
「そうなのか?」
彼の質問に、仕方なく頷く。
「まあね。ていうか本気なんて出せないよ。島ごと吹き飛ぶから。見たい?」
「そりゃ怖い」
「キミはキミで恐ろしいけどね」
「ええと、その二人はどういう能力なんだ? 男子の方は悟くんだっけ?」
「悟で良いですよ。剣崎悟です。よろしく」
悟は朗らかに言葉を返す。
見た目は派手だが、意外と引っ込み思案で丁寧な子だ。
髪型や髪の色は、高校に入るあたり鹿歩が色々と口を出したらしい。
「能力は予知能力です。二、三日先の新聞記事くらいなら予知できます。まあ本当はもう少し精度が高いんですけどね」
「凄いな」
続いて、さっきまで悟の後ろにいたはずの鹿歩が、羽黒彦一の背後に現れた。
羽黒彦一は驚いて振り向く。
「私は閑谷鹿歩。能力の説明はいる?」
「今見せてもらった」
「百キロ圏内の転移なら一日十回できる……ということにしてる。本当のところはヒミツ」
「みんな嘘ついてるじゃないか」
「ま、そういうことだね。キミほど大きな嘘はついてないけど」
羽黒彦一は「してやられた」という表情をしていた。
仕方ない、助け船くらい出してあげよう。
「ともかく、そういうことならキミも念動力を使えるようになれば良い」
「んな無茶な」
そういうと思ったよ。
「適性にもよるけど、念動力は超能力の中でもごくごく基礎的な超能力さ。すでに何かしらの超能力に目覚めてるなら、念動力を使うのはさほど難しくはない」
「そうなのか!?」
「ああ。ひとまず念動力をトレーニングしつつ催眠も使えるようになったってことにすれば良い。メインの能力を念動力と見せかけるのさ」
「なら催眠を使えるようになったってこと、言う必要ないんじゃないか?」
「秘密のままでも良いけど、キミ自身はその能力を磨く必要はあると思うよ。能力をコントロールしないと事故を起こす可能性もある」
「む……」
彼は普段よりも真面目な顔で考え込む。
さっきの授業中、色々と教えた甲斐があったようだ。
「じゃ、念動力のトレーニングしたいかい?」
「頼む」
「頼む? それがお願いする態度かな?」
「意外と頑固なやつだな……」
「嫌なら良いんだよ?」
彼は渋い顔をするが、すぐに神妙な顔をした。
「心配してくれてるのに昨日も色々とずけずけ言ったし、すまなかった。どうかよろしくお願いします」
そして立ち振る舞いを正して、びしりと頭を下げた。
「う、うん」
「頼む!」
今度は膝を地に着けて、両手を合わせて拝み倒すように叫んだ。
いや、そこまでは求めてないんだけど。
「足りないか? 土下座するか?」
「良いよ! うんって頷いただろ!」
「じゃあ頼むわ先生」
さっきまでの神妙な態度はどこへいったのやら、彼は膝についたほこりをパンパンと払い、にやっと笑う。鹿歩も悟も、どこか苦笑まじりのまま傍観の姿勢だ。
なんとなく釈然としない物を感じつつも、やるべきことはやらなければならない。
「はぁ……。じゃ、準備するよ」
「二人は頑張って。私たちは自主トレしますから」
「え?」
鹿歩と悟が体育館から離れようとする。
「え、ちょ、なんで?」
「なんでって……念動力のトレーニングに何人も集まってたら危険。周りに気にせず力を振るう状況でないとトレーニングにならない」
「そうですよ。教えるなら白眉さんが適任ですし僕らの出番はないです」
出ていこうとする鹿歩の首根っこを捕まえる。
そして、耳打ちするように鹿歩に怒った。
「い、いや、そうだけどさ……二人きりにしないでよ」
「別に悪い人間じゃない。授業中だって仲良さそうだった」
「そういうわけじゃ……」
「白眉。あなた私たち以外に友達を作った方が良い」
「ぐ」
痛いところを突かれた。
「そりゃそうかもしれないけど、仕方ないだろ」
「うん。仕方ない。だからこそ対等な人間は大事にすべき」
更に痛いところを突かれた。
「……わかったよ」
「なら良い」
そして二人は颯爽と去っていった。
「おーい、始めようぜ」
のんきな声がボクを急かす。
いい気なもんだ、と溜め息を付きたくなる。
だったら、ビシバシしごいてやろう。
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