モンスタークレーマー幼馴染VS最強の念動力者 5




 白眉の質問に、俺は首をひねった。


「どうするって言われてもな?」

「あのね、忘れた? 五人目の超能力者をどうするかが議題だったでしょ。利用されたりしないように保護しようって」

「あ、そっか、それが本題だった」


 俺が思案しているあたりで、鹿歩と悟も駆け寄ってきた。

 鹿歩はどこかへ転移していたのか、スポーツドリンクとタオルを用意して白眉へ渡した。


「ありがと、鹿歩」

「お疲れ。で、五人目をどうするって話だけど……」


 鹿歩の言葉に、全員の視線が俺に集中する。


「ま、言わずともわかる。俺が守る」

「守るっていうか……監視?」

「わかるけどあんまりネガティブな言葉を使われると萎える」

「そこを誤魔化してどうするの」


 鹿歩が呆れたように溜め息を付く。

 だが、俺はそこを譲るつもりもない。


「俺はこいつが暴走しないように見張るし守るよ。ただそれは、こいつの人生が損なわれるような事態を招きたくないだけだ。こいつと俺のために。世のため人のためにやるつもりなんて毛頭ない」

「はぁ……ずいぶん仲が良いみたいだけど」

「お前らもできるなら仲良くしてやってくれ。頼む」

「なら、その子もそうするように言って」

「もちろんだ。何がどうなって超能力者に目覚めたり襲いかかってきたかは知らないが、普段は悪い奴じゃない……いや、悪い奴だが極悪人じゃないんだよ」

「そこ訂正するの!?」

「悪人扱いはどうかと思いますよ彦一さん」


 鹿歩も悟も、わけがわからない様子だ。

 だが、白眉はなんとなくわかったような顔をしていた。

 一戦交えてなんとなく華の性格を理解したのだろう。


「ま、キミのスタンスはわかったよ」

「白眉、良いの?」


 鹿歩の問いかけに、白眉が頷く。


「別に彼女と敵対したいわけじゃないし、彦一を咎めたいわけじゃない。超能力者が公に認知されたり、社会の敵と見られたり……生きにくい世の中になるのはなるべく避けようって目的を共有できていれば構わないさ。まあ、こんな苛烈な性格の子が念動力を覚えたのはちょっと怖いものを感じるけど……」

「そ、そこは言い含めるし何かあったら体を張って止める」

「そうは言うけどね」


 白眉が近付いてきて俺の正面に立つ。

 吐息が掛かりそうな距離だ。


「近い近い」

「この子は危険だよ。キミのスタンスは理解した。でもキミがそれを達成できるかどうかはまた別のお話」


 そう言って白眉はしかめっ面で俺の胸元を人差し指でつつく。


「重々わかってます」

「気をつけるんだよ? 彼女の潜在能力は底知れない。手に負えないと思ったら、絶対に僕に相談するように」

「うっす」

「僕らは同志だ。意志を共にした仲間だ。一人じゃない。……君はそう言って僕を天海筏と手を切るようにそそのかしたんだ。責任は取ってもらうからね?」

「お、おう。どんと来い」

「ふふ、どういう風に取ってもらうかは後のお楽しみさ。それまで自分の身の安全も、あの子の身の安全も、ちゃんと守るんだよ?」


 白眉はたまにこんな言い回しをして俺を脅かす。


 実際、白眉は四人の中で一番どっぷり天海筏てんかいはつに漬かっていた。


 だから俺は、白眉を説き伏せた。


 あるいは、そそのかした。


 実際、天海筏みたいな無軌道な勢いだけの組織にいつまでも居続けていたらテロリストにされていた可能性だって高い。正直俺としては白眉を助けてあげた認識ではあるのだが、それでもこいつの人生を大きく変えたのも事実だ。そして説得が成功して以降は白眉に助けられてばかりだ。足を向けて寝れない。


「助かる、白眉」

「うん」


 白眉がにっこりと笑う。

 その笑顔をよく見れば、少しばかり砂が頬についたままだ。


「あ、砂がついてるぞ。取ってやるからじっとしてろ」

「……んッ」


 たまたまポケットに入れていた殺菌ウェットティッシュで頬を拭う。くすぐったのか、白眉は硬直して変な声を出した。こいつ、格好良いポーズやセリフを気取るのが好きな癖に、意外とおっちょこちょいなところがある。


「よし、と。汚れは落ちたな」

「う、うん……そ、それじゃ今日は終わりにしようか。久々に能力使って疲れちゃったよ」

「いちゃつくの終わった?」


 鹿歩と悟が微妙な目でこちらを見てくる。


「な、なんだよ」

「なんでもないですけど、帰るよ。転送ゲート開くから、そこの子を抱えてあげて」

「おう、わかった」


 俺が華を担ごうとした瞬間、鹿歩が転送ゲートを開いた。


「おい、早いって」

「それじゃあまた」


 抗議する間もなく、鹿歩は俺と華を転送した。







 彦一と華を転送した後の浜辺で、鹿歩がこれ見よがしに溜め息を付く。


「白眉、あれで良いの?」

「良いんだよ」

「でも」


 鹿歩は抗議しかけて、口を閉ざした。


「それより、まだ彦一には黙っててね」


 僕はくるりと振り返って、人差し指を口に当てた。


「僕が、本当の天海筏の首領だってこと」



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