モンスタークレーマー幼馴染VS最強の念動力者 4



 撃ち出されたエネルギー球は、凄まじい速度と正確なコントロールで白眉へと襲いかかる。


「くっ……舐めないでほしいな!」


 白眉が砂浜に右腕を突き刺した。

 すると白眉の目の前の砂が隆起し、巨大な砂の手を形成した。

 手というより、まるで野球のミットだ。

 白眉の背丈よりも大きなミットがエネルギー弾と衝突し、弾ける。

 砕かれた手が砂へと戻り、周囲に飛び散る。


「うわっ!?」


 砂煙が周囲一帯に撒き散る。

 月と星の明かりでかろうじて見えていた光景さえも見えなくなる。

 だが、念動力の使い手にとっては決して不利な状況ではない。


「そこっ!」


 相手のサイキックエナジーを敏感に感じ取り、猟犬のように位置を把握して攻撃することができる。白眉は自分の扱う念動力が大きいからといって、繊細さを持ち合わせていないわけではない。むしろ精度も強度も最高峰だ。


「そっちこそ、舐めるなァ!」


 そのはずだが、華は一秒ごとに進化していく。

 華はすぐさま白眉のテクニックを学び取り、砂の盾を展開した。


 こうして、拮抗状態が続いた。

 華が白眉の攻撃や防御を学び取ってすぐさま応用する。

 だが白眉もまたそれを破る新たな手段を講じる。


「これは……そういうことか」


 華はどんどん念動力の使い方を学んでいく。

 荒削りで爆弾のような有様だった華の動きは、今や流麗と言って良いほどの使い手になった。

 あと一歩で白眉のガードを突き破れる、そこまでの段階に来ていた。


「白眉の勝ちだな、ガス欠だ」


 俺の呟きと同時に、華の動きが止まった。

 そして、前のめりにどうと砂浜に倒れ伏した。


「ふう……疲れた」


 白眉がぱんぱんと服に付いた砂を払う。

 肩で息をしつつも、まだ表情には余裕があった。華と戦っていたときに苦しそうな表情をしていたのは、おそらく半分くらい演技だろう。


 俺は華をうつ伏せから仰向けにする。

 呼吸も問題ない。意識は疲労で飛んでるだけのようだ。

 無事を確認してから白眉のところへと駆け寄った。


「すまん、加減してくれたんだな」

「したというか、せざるをえなかったというか……」


 白眉が曖昧に頷く。


「彼女は、恐らく自分の身に受けた能力をコピーできるみたいだね。恐ろしい力だ」

「みたいだな」

「だから、最初から僕が本気で戦うとそれに対応される恐れがあった。僕らにとってひどく危険だし、彼女の方だっていきなりアクセル全開で超能力を発揮して焼き切れてしまう可能性がある」

「それで弱めの念動力だけで戦ったわけか」

「少しずつ威力を上げてね。5%くらいから始まって……直前だと20%くらいかな」


 少しずつギアを上げて勝負を引き延ばしたわけだ。『このまま押し切れば勝てる』と華に思わせ、体力が尽きるまでブン回させた。また、結果的に華はこの一線で、超能力をコントロールする訓練をしたことにもなる。


「……助かった、ありがとう。本気で挑発してるのかと思ったが演技だったんだな」

「え?」


 白眉の反応が止まった。


「……あ、ああ、もちろん怒ったフリだよ」

「いや怒ってるだろ絶対」

「仕方ないだろ! あんなに危険な存在だなんて聞いてないよ! ていうかそれ抜きにしても性格悪すぎだろ!」


 白眉が逆ギレした。

 いや、正しい怒りだ。初対面で華を見れば万人が間違いなく「なんだこいつは」、「関わりたくない」という感情を抱く。例外はスポーツや習い事の指導者くらいだろうか。


「いや……俺も流石にあいつが超能力者だなんて知らなかったんだよ……。性格悪いという件についてはまったくその通りとしか言えない」

「あれだけ才能があれば天海筏てんかいはつのテストに引っかかってると思うんだけどなぁ……」


 白眉が首をひねる。


「あ」

「何か心当たりあるのかい?」

「こいつサボってたな。成績にも受験にも関係ないからって」

「……なるほどね。まあ、そういうこともあるか」


 はぁ、と溜め息を付いて白眉は砂浜に腰を下ろし、ぽつりと呟いた。


「で、この子はどうしようか?」



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