モンスタークレーマー幼馴染VS最強の念動力者 2




「いたっ」


 影に飲み込まれて空間転移した俺たちは、とある海岸に投げ出された。

 くそ、砂が靴の中に入った。


 昼間に見れば素晴らしい景観なのだろうが、夜の闇にあっては不気味の一言だ。

 満月と星がやけに眩しい。

 周囲に人工物や街灯の一切がないためだ。

 耳に届く音もさざ波と風の音だけ。

 車のエンジン音やブレーキ音もなく、寒気がするような静寂がそこにあった。


「ここは……?」

「超能力の研究所があった島だよ。施設はほとんど壊しちゃったし今は誰も住んでないから、完全な無人島だね」


 華の疑問に答えたのは白眉だった。

 だが、それを聞いても華は眉をしかめただけだ。


「彦一から聞いてないのかい? 彼……というか僕らが拉致られたところでね。今は完全な無人島だからどれだけ暴れても」

「ねえ彦一! ここどこ!」


 白眉の言葉を遮るように、華が叫んだ。


「あー、うん、無人島だ」

「ちゃんと答えなさいよ、まったく」

「彦一、今は口を挟まないでもらえるかな。彼女の相手をするのは僕だよ」


 俺を黙らせた白眉を、華が殺意に満ちた目で睨む。

 華と白眉の間で険悪さのボルテージがぎゅんぎゅん高まっていく。

 ……どうしてこうなってしまったのか。


「ま、安心して。すぐ終わらせるよ。キミのことはこの僕がちゃんと守るさ」

「いやだから、待ってくれ白眉」

「さて、そこの超能力の初心者くん。混乱していないかい? 体調や気分は悪くない? あるいは逆に、昂ぶって爽快すぎる気分だったりする?」


 白眉がまた俺をスルーして、華に向き直った。

 わざとらしいほど仰々しい身振りをして話しかける。

 間違いない。白眉は何故か、華を挑発している。


「あんたのおしゃべりを聞きに来たわけじゃないんだけど? そもそも何よその服。馬鹿じゃないの? 口調も変。彦一はこんなおしゃべりクソダサ女につきまとわれてるのね。言ってくれたら追い払ってあげたのに」


 そして華は当然のように挑発に乗ってきた。

 念動力で縛られるというレアな体験をしておきながら、恐れたり引き下がったりという選択肢は一切無さそうだ。相変わらず華は後退するギアが故障している。


「……ふーん。追い払う、か」


 白眉の右手に力が集中する。

 超能力を持たない常人の肉眼でさえ見えるであろう、それほどの光と熱量だ。


「ま、待て白眉! やり過ぎだ!」

「やり過ぎなもんか」


 その力を、まるで野球ボールのように華に投げつけた。

 だがその凶悪さは硬球の比ではない。

 鉄やコンクリートを平気で穿つだろう。


「うるぁ!」


 それを、華は金属バットで払いのけた。

 弾かれた球形のエネルギーは、放物線を描いて遠くの海に落ちた。

 どぉん、という爆発音が響き渡る。

 ファールボールだ。


「……ったあ……! あんた、人を殺す気!?」


 華が痛そうに手首をさする。

 だが白眉は、というか華を除く全員は華の行動に目を剥いていた。


「……いや、そっちこそ防いだじゃないか」

「防がなきゃ死んでたわよ!」

「僕の拘束を振りほどけるなら、今の攻撃を防ぐくらいは簡単にできるはずさ。で、キミは突っ立ってるだけかい? 案外ノロマだね。追い払うんじゃなかったの?」

「……上等」


 華が無造作に距離を詰める。

 一瞬、駅のホームで快速新幹線を見送るような気分になった。

 それほどの風圧を感じた。


「ぐっ……!」

「喧嘩に飛び道具を出すのは卑怯なんじゃないの?」


 がぁん、という金属音が鳴り響いた。

 白眉が念動力を不可視の盾のように展開し、攻撃を防ぐ音だった。


「……僕は生身でできることをしてるだけだよ」

「そんな化け物じみたことしておいて開き直るって、本当に意地汚いわね。彦一に話しかけないでくれる?」

「それはこっちのセリフだよ。キミに会えて良かった。彼がどれだけ苦労しているか理解できたからね」

「待ってくれ、なんで俺のために喧嘩してるみたいな空気になってるの?」

「「彦一は黙ってて」」


 その言葉が合図だった。

 華と、白眉が、超能力で戦い始めたのだ。




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