モンスタークレーマー幼馴染VS最強の念動力者 1




 凄まじい気配の接近に、白眉がいち早く動いた。


「そこだ……来るよ!」


 自分で疑問を口にしながらも、白眉が感じた予感を俺もひしひしと感じていた。

 そこに何かが現れる。

 まるで太陽がそこに現れたかのような錯覚さえ覚える。

 しかもそれは少しずつ近付いてきているのだ。


 俺は覚悟を決め、臨戦態勢を取る。

 こちらに敵意を向けてくるようならば、その意志を全力で奪う。

 どこの誰が来るのかはわからないが、なりふり構ってはいられない。


 そして、


 ぴんぽーん


 と、冗談のような音が鳴った。


「玄関……だな」


 そして間を開けてもう一度、ぴんぽーん、と鳴った。


「で、出るか?」


 俺は全員の顔を見る。

 白眉は警戒したまま表情を動かさない。

 鹿歩と悟は困惑したままだ。


 だが玄関に居る誰かは焦れたように、ぴんぽんぴんぽんとチャイムを連打する。

 どうすべきか逡巡している内に、がぁん! という轟音が鳴った。


「な、なんだ!?」


 続いて、ばきっ、がたっという音が鳴った。

 何かが破壊された音だ。

 何かってなんだ?

 考えるまでもない。玄関だ。

 恐らくは蝶番やドアノブを思い切り壊されて、玄関をこじ開けられたのだ。


「ウソだろ、おい」

「しっ、彦一。警戒して」


 白眉に注意された。

 いや自分の家がブッ壊されたら焦るだろ……と抗議したいが、ぎし、ぎしと、フローリングを歩く足音に注意を向けざるをえない。

 突然やってきた誰かと俺たちの距離は10メートルもない。

 廊下とキッチンを区切る曇りガラスの扉に、人影が見えた。

 全員が警戒して身構える。

 この異常事態を前にして、全員が瞬時に超能力を発動させる構えた。


 そして、扉が開いた。


「ちょっと彦一、チャイム鳴らしてるんだから出なさいよ」


 だがあまりにも見慣れた姿に、俺はがくりと膝を付きそうになった。


「は、華……。お前か……?」


 一瞬安心してしまった。

 が、それでも異常事態であること、そして華の様子がおかしいことにすぐに気付いた。


「お、おい。服、どうした? それと金属バットなんて持って危ないじゃないか」


 破けたり汚れたりしている。

 髪も妙に乱れている。

 もしかして、乱暴でもされたのか。そんなまさか。

 それに、なんで金属バットなんて持ってるんだ。


「待つんだ彦一。危ない」


 華に近付こうとした俺を、白眉の背中が遮った。


「あ、いや、白眉。俺の知り合いなんだよ。前にも言ったと思うが、こいつが……」

「彦一、誰よこいつ」


 まずい。

 白眉の言うことももっともだが、お前が俺を守るという行為が事態を悪化させてしまっている。華は不穏な目で俺たちの顔を順繰りになめ回すように見た後、白眉を睨んだ。


「やっぱり聞かなくて良いわ。邪魔よあなた」


 華が、白眉をどかそうと手を伸ばした。

 だが白眉はそれを防ぐように、華の二の腕を掴む。


「【縛れ】」


 白眉がそう呟いた瞬間、台所に転がっている電源の延長コードが勝手に外れて蛇のようにぐねぐねと動き始めた。


「ぐっ……何よこれ……!?」


 そして、あっという間に華の体を縛り上げた。

 更にはガムテープや荷造り用のヒモなどがぐるぐると華に巻き付き始める。


「ちょっと強めに縛るけど、傷痕が残るほどじゃないよ。少し大人しくしてると良い」

「おい白眉、やり過ぎだ!」

「やり過ぎなもんか。こんな危険な気配を漂わせて、明らかにまともじゃないよ。彦一、早く彼女に暗示をかけるんだ。一旦眠らせて落ち着かせてくれ」


 う、反論のしようがない。

 確かに今の華は錯乱しているように見える。


「ふぅん……その女の話聞くんだ。じゃ、受けてあげない」

「え?」

「まずこの女をどかしてからよ」


 みちみち、めりめり、という音が響いてきた。

 何の音かは考えるまでもない。

 華を縛る延長コードが、圧倒的な力によって断線する音だ。


「まっ、待て、落ち着け……!」


 ぶちん、という音が響いたと同時に華は距離を詰め、白眉の襟を掴んだ。

 その掴む手を、さらに白眉が握る。


「懲りない子だね。無駄だと言うのがわからないのかい」

「やってごらんなさい」

「さっきは加減してあげてたんだけどな」


 白眉が集中する。

 先程の白眉は、延長コードなどの物体を介して華を縛り上げていた。

 だが今は、力の塊のようなものが大蛇のように華に巻き付いている。

 不可視のエネルギーそのものだ。

 縛るなんてなまやしさではない。

 もはや絞め殺すかのような勢いだ。


「くっ……華、すまん!」


 これ以上押し合いへし合いが続いたら華の身が持たない。

 俺は華の額に手を伸ばした。

 だが、すぐに異変に気付く。


「なっ……入らない……?」

「【今はやめて】」


 俺の催眠が通じない。

 明確な意志を持って抵抗……いや、拒否された。

 しかも、締め上げられている華が、少しずつ体を動かし始めた。


「まずい、これも破られる……鹿歩! どこか広くて誰も居ない場所に……!」

「わかった……【転送】!」


 鹿歩が床に手を置いた。

 すると、鹿歩を中心に床に黒い影が円形に広がっていく。

 影は俺たち五人をすっぽりと飲み込んだ。




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