超能力者倶楽部 3


 俺の問いかけに、白眉は意味深な微笑みを浮かべる。

 そして、


「それはわからないよ」


 当たり前じゃん、とばかりに白眉が肩をすくめた。


「おいおい。教団の教祖を何とかしたのお前だろ。何か知らないのか?」

「ありゃダメだね」


 俺は、天海筏てんかいはつの様々な関係者の記憶を操作して日常生活に戻らせた。とはいえたった一人で全員手早く催眠するのは骨だったので、白眉と手分けして作業した。


 俺は白眉から念動力の基礎を習い、逆に白眉は俺から催眠術の基礎を学んだ。もちろん自分の得意分野ほどのパワーはないが、一般人や弱い超能力者程度であれば問題なく影響を与えられる。


 そして天海筏てんかいはつの教祖を洗脳したのは白眉だった。


「超能力者をみこしにして金儲けするつもりが、あまりにも信者の勢いが強すぎてコントロール不可能になっていたんだよ。とりあえずそれっぽい教えを説いて信者のガス抜きすることで精一杯だったし、そもそも研究者がどういうことを研究してたのか理解できなくなってた」

「ぐだぐだだな」

「そう、ぐだぐだだったんだよね。口からでまかせのテーマを真に受けた信者たちが勝手に盛り上がってた。そこが不安なんだよ。教祖にさえ黙って変なことをしてた可能性もあったからさ」


 結果として人体実験が行われて、俺は超能力に目覚めてしまった。他にもちょっとした念動力や発火能力といったものに目覚めた人はけっこうたくさんいたが、指で弾くよりも弱い力だったりライターより火が弱かったりと、大したことはなかった。


「でもこんなカルト文書があるだけなら大丈夫じゃないか? ヤバい能力を持った五人目がいるって話も真偽不明だし。何より超能力者を探す手段がない」


 俺がそう言うと、白眉が口を挟んだ。


「でも、超能力者の素質を発見する方法なら知ってるよ。そのあたりの資料は研究所を壊す前に確保しておいたからね」

「どんな風に?」

「超能力を浴びせれば良いのさ。眠っているものを呼び起こしたいなら、揺さぶってしまえば良い。例えば彦一がフルパワーで周辺住民全員に暗示をかければ良い。『明日は踊りながら通勤・通学しましょう』とか」

「却下だ却下」

「面白そうだけどなー、残念」


 白眉がけらけらと笑う。


「俺たちが探すような『五人目』とは無関係に、有象無象の超能力者を増やしちまうだろう。本末転倒だ」

「あ、それもそっか」

「大体、踊り狂ってる連中の中から踊ってないやつを見つけろってか。大変すぎるわ」

「ん? 違う違う。一番踊りまくってる人を見つければ良いんだよ」


 予想外な返事に、俺は首をひねった。


「どういうことだ?」

「超能力の素質のあってもまだ目覚めてない人間は、自分の力を使って他人の超能力者に抵抗する手段もまだ覚えていないんだよ。むしろ、敏感に反応する。僕がデコピンくらいの威力の念動力を放ってもビンタされるくらいに感じるはずだ」

「なるほど」

「ていうか彦一だって他人からの超能力で目覚めたはずだよ。忘れたの?」

「そうだっけ? 変なジュース飲んだりテストやったりした覚えがあるんだが」

「多分それだね。でも簡単な催眠暗示を使える人が『これはオレンジジュースです』とか言って飲ませたものだよ。でも実際はただの水だったはず」

「そういう意味があったのか……」


 おかしいと思ったんだよ。

 留学生説明会でジュースが配られるとか。

 しかもすげえ濃厚で甘いのに「ちょっと薄いな?」「水じゃないの?」とか囁いてる人もいたし。


「だからキミが催眠を与えたら、催眠を過剰に受け入れてしまう。踊れと命令したら浅草のサンバくらいは踊りまくるんじゃないかな」

「うん……うん?」


 催眠を過剰に受け入れる。


 おかしいな、なんか心当たりがあるぞ。


「でも超能力が目覚めたらすぐに抵抗力を自然と身につけるだろうね。キミの催眠は普通の人間には絶対に破れない。でも催眠にかかっていることを自覚したり、暗示に抵抗したり……何らかの反発があるはずだ」

「そ、そうか」


 催眠を自覚する。


 抵抗ができる。


 まさか、そんなはずがあるまい。


 だが俺の勘は囁いている。絶対にそうだぞと。


 俺の軽い催眠によってひどく消耗し、そして催眠を自覚的に受け入れ、ついさっきは俺の暗示に抵抗した美しい少女を思い浮かべる。


 あいつは超人だ。何だってできる。スポーツも、勉強も、同年代に決して負けたりはしない。


 だったら、超能力だって例外じゃないんじゃないのか――?


「とはいえ、一回や二回、超能力を浴びせられたくらいじゃ目覚めないと思うけどね」

「そ、そうか」

「何回も繰り返しトレーニングするように超能力を浴びせられたり……あるいは命の危機が訪れたり、みたいなことしなきゃ簡単には目覚めないよ」


 その白眉の言葉に、俺は内心ホッとしていた。

 華が超能力者だったとしたら手がつけられないだろう。

 今はまだ可能性の段階だが、これ以上の暗示はやめとこう。

 そう思った瞬間のことだった。


「な、なんだ……!?」

「うわっ?」

「ど、どうしました!?」


 凄まじいオーラを感じる。


 オーラってなんだって話だが、「気」とか「サイキックパワー」とか「プレッシャー」とか、そういうフレーズで表現しても良い。何が言いたいかと言うと、濃厚で爆発的な超能力者の気配を感じ取ったのだ。


「誰かが目覚めたんだ……! 僕らに匹敵する……いや僕らを超えているかも……!」




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