超能力者倶楽部 2




 悟は不良でもビビる顔つきと体格をしているが、人柄はとても真面目だ。

 タメ口で良いって言ってるのにいつも敬語の爽やかな少年だった。


「もし仮に新たな超能力者がいたとして、日常生活に困ってしまう可能性はあるんじゃないでしょうか。俺たちは似たような境遇の人間がいたから日常生活にも戻れたしカルト教団に取り込まれずに済んだけれど、もし孤独だったら厳しくないですか?」

「それは確かに」


 俺は留学に見せかけて、天海筏てんかいはつの実験台にされた。俺はこうして超能力に目覚めたが、そうした実験を経ずとも超能力に覚醒した人間は実は存在している。


 白眉と悟はそんなケースだ。白眉は物心ついたときからスプーンを曲げるくらいのことはできたらしい。ちなみに鹿歩は俺と同様に後天的に目覚めた。


「強力な超能力者が事件を起こしてしまったり、何かの組織に担ぎ上げられたり、あるいは実験台にされるかもしれない……ということを考えると、放置するのは胸が痛みます」

「そうだなぁ。それに巡り巡って超能力者全体のイメージが悪くなると俺たち自身にとっても良くないし」


 俺たちは社会から逸脱しても十分に生きていける力がある。だが、だからといってそれを望んでいるわけではない。学校を卒業して普通に卒業したいし、公的サービスの恩恵を受けて人生を歩みたい。少なくとも俺はそう思ってるし、他の三人も同意してくれた共通了解だ。


「でも五人目を見つけるって言っても難しい。悟の能力も、他の超能力者が絡むと精度が落ちる」


 鹿歩がため息をつく。


「あはは……面目ないです」

「べ、別に悟が悪いと言ってるわけじゃない」


 鹿歩がばつが悪そうに謝るが、悟は気にした風もなく微笑む。鹿歩はずけずけと物を言う性格で、悟はその図体に見合わず謙虚で丁寧な性格だ。二人は妙にウマが合うのか、研究所でもよく一緒に話をしていた。付き合ってんじゃないかなこいつら。


「まあ絶対に変えられない予知をされてもそれはそれで困るしね。変えられるからこそ価値があるとも言えるじゃないか」


 と、白眉が言った。


 悟の予知能力は強力無比だが、白眉の言う通り絶対的な運命を観測するものではない。予知した未来を変えることは可能なのだ。例えば東京に雨が降るという予知を出したとしても、白眉の能力で雲を吹き飛ばしてしまえば晴れにすることだってできる。


 つまり、悟の予知を何とかできる人間……主に俺たちのような超能力者にとって、悟の予知は確実な未来を意味しない。ただし。


「今回はそれが仇になるわけだな。超能力者であれば悟の予知できる範囲を超える可能性もあるわけだ」

「そういうわけです」


 ふう、と悟が溜め息を付く。


「それに能力も漠然としてるんだよな。念動力とか催眠とかわかりやすい能力を使うならともかく、見つけるのは難しいだろうな」

「そうかな?」


 俺の諦め気味の呟きに反応したのは、白眉だ。


「うん? 何か心当たりがあるのか?」

「『あらゆる超能力を統合する』……これ、天海筏の実験でそれっぽいことやってたよ。能力そのものを奪ったり合体させたりできないかって色々試行錯誤してたじゃないか」

「え、なにそれ知らない」


 鹿歩と悟の顔を見た。

 鹿歩はきょとんとしている。こいつは俺と同じく何も知らなそうだ。

 だが悟は、何か思い当たる節がある顔をしていた。


「ああ、やっていましたね。恐らく彦一さんと鹿歩さんは知らないでしょう。眠っている超能力を目覚めさせるのではなく、超能力を外から与えたり、あるいは取り外したりできないかというテーマはあったはずです」

「協力したのか?」

「むしろ俺はそれ目当てだったんですよね」

「え?」

「言いませんでしたっけ? 俺は自分の能力って、超能力じゃなくて呪いとか病気だと思ってたんですよ。治療するためのカウンセリングを受けたりしてたら天海筏の人が来て説明を受けて、『超能力だ』ってわかったんです」

「あ、そういえばちらっと聞いたな」


 悟は、自分の能力を疎ましく思っていた。

 幼少期に人の死をうっかり予言してしまっていじめられたり、地震や台風を予知して気味悪がられたりしたらしい。転校して地元から離れたり自分の能力を隠したりしてようやく日常生活を送れるようになったのだそうだ。


「でも色々試すうちに能力を消去するのは無理だとなって、『誰かに移す』とか『いっそ自分で制御できるようにする』とか色々とアプローチを変えていったんです」

「で、そうこうする内に僕が合流して、その次に鹿歩。最後に彦一が合流して四人になったわけだ」

「ですね」


 白眉の言葉に悟が頷く。

 ナチュラル超能力者組は色々と悩みが深そうだな。


「まあ昔話もしたいが今は話を戻そう。天海筏は超能力を移せるか研究してたってわけだな」

「移す……っていうほど穏便じゃないね。多分、奪おうとしてたんだ」

「あー、まあ、超能力なんて才能の世界だしな」

「教祖だってちょっとした念動力を使ったり、切り傷や火傷を治したりできたくらいで、僕らには遠く及ばなかったからね。欲しがろうとしてもおかしくはないんじゃないかな」

「でも失敗したんだろ?」

「うん。少なくとも、科学者や研究者があれこれやったところで無駄だったらしいよ」

「だから、それができる超能力者を探していた?」


 俺の問いかけに、白眉は頷く。


「これは僕の私見だけど、他人の超能力に干渉するにはやはり超能力者でないと難しいんだよ。僕らならば悟の予知を妨害したり、彦一の催眠にも抵抗できる」

「そうだな」


 超能力の強さは、他人から受ける超能力への防御力でもある。

 そういう意味において俺たちは力関係が拮抗している。

 上下関係にはなりにくく、対等な仲間だという安心感がある。


「だから、他人の超能力に干渉する能力を利用して最後の目的を達成しようとしたのさ」

「『新たな世界を導く』ってやつか。どういう意味だ?」



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