超能力者倶楽部 1
家に帰った頃はすっかり夜だ。
母さんは長期出張中でスマホでやり取りするくらいだ。俺の育児で小学校中学校までは時間をセーブして働いていたが、それを取り返すように今はバリバリと働いている。華のママほどではないが勤労意欲旺盛で寂しく思いつつも助かる。
「や、おかえり」
「お前勝手に人の家のキッチンでくつろぐなよ。泥棒かと思ったぞ」
「泥棒は君のためにコーヒーなんて淹れないよ」
そこに居たのは、白眉だった。
前回と同じく大仰なゴスロリの服を着ている。
これ普段着で着てるんだろうか。
そんな姿の人間が、普通のキッチンで珈琲を淹れているのは妙に倒錯的な光景だ。
「色々言いたいことはあるが、ありがとよ。それで……鹿歩と悟も来てたか」
「ん。邪魔してる」
キッチンには白眉以外に二人の人間がいた。
まず一人目。
小柄な女の子が椅子に座り、牛乳を飲んでいる。
すっぱりとまっすぐに断ち切った前髪とショートボブ。
黒縁眼鏡と合わさり、とても真面目そうな印象を受ける。
飲んでいる物が家主の許可を得た物であれば完璧に良い子なのだが。
そんな少女こそ、四人の超能力者の一人、
物質転送、瞬間移動などを操る空間に干渉するスペシャリストだった。
「すみません、俺が呼ばれたときには勝手に始めてたみたいで」
そして、もう一人の少年が丁寧に詫びる。
態度は丁寧だが外見は厳つい。
ほぼスキンヘッドに近い短髪、切れ長の鋭い瞳。
中国マフィアみたいなサングラス。
180センチを超える高身長に分厚い胸板。
格闘技か何かをやってそうな風貌だが、生徒会役員らしい。
名前は
俺より一つ下の高校一年生。
彼もまた超能力者だ。
「ちゃんと代わりのは入れておいた」
鹿歩がえへんと胸を張るかのように言った。
まあ賞味期限近かったし良いか。
「そういえば晩ご飯食べた?」
白眉が俺に尋ねる。
「三日分くらい食べてきた。何も入らねえ」
「なにそれ。大食いチャレンジでもしたのかい?」
「似たようなもんだ」
「残念。何かご馳走しようと思ったのに」
「コーヒーで十分だよ。それより、全員がここに来たってことは」
「予言が降りてきました。謎が一つ判明します」
悟の能力は予知だ。
自分や仲間の命に関わることであれば確実に的中する。
大規模災害などもまず間違いなく的中する。
その他、天気や株価なども一日後であれば大体当たるがそのあたりは上手く読めないこともある。現代社会においては俺と同じくらい強力なチート能力だ。
「正解。内容はわかったか?」
「そこまではわかりません」
「じゃ、解答を出そうか」
俺は、鞄から書類を取り出してテーブルに投げ出す。
「白眉からもらったデータに入ってたレポートだ。色々と驚くことが書いてある」
「これが……」
三人の視線が、レポートに集まる。
そして、ぼそりと鹿歩が呟いた。
「……なんで四部コピーしてないの?」
「面倒だから回し読みしてくれ」
「はぁ。コピーしてくる」
「お、すまんな」
鹿歩がレポートを持ってひゅんと姿を消した。
◆
鹿歩が四部コピーして戻ってきた。
敏腕秘書みたいな動きをする女の子だな。
ともあれレポートを読む準備ができた。
「……なにこの似非ホラーゲームみたいなのは」
「カードゲームのフレーバーテキストのようにも思います」
鹿歩と悟が落胆したように呟いた。
まあ、俺もざっくりとまとめた要点は華から聞いているが、読んでみると確かに曖昧で、大人が大人向けに書いた文書とは思いにくい。オカルト雑誌の記事ならまだわかる。
「まあまあ、一応気になることが書いてあるんだからさ」
白眉が皆をなだめる。
そういえば白眉も、そして華もこの手の怪文書好きそうだな。
「もう一人部員が増えるのはちょっとワクワクするじゃないか」
「部員ってなんだ、部員って」
「え? うーんと……超能力者倶楽部?」
俺の問いかけに、白眉がとぼけた答えを返す。
「部活ねぇ……いやまあ実質部活だけどな」
「ほら、そうじゃないか」
「まあ名称はともかく、五人目って言われても実在するのかも怪しいだろうよ。放って置くしかないんじゃないか」
「ええー」
白眉が露骨につまらなそうな顔をした。
まったく冗談ばかりと俺が呆れてるところに、意外にも悟が挙手をした。
「どうした悟。ていうか挙手なんていらないが」
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