新生・弥勒門華 7




「超能力者だけの世界……? それはどういうものなんだ?」


 俺が尋ねると、華はにへらっと人の悪い笑みを浮かべた。


「食糧問題や環境問題、社会問題、差別や偏見はまるっと解決して誰にとっても素晴らしいパラダイスなんですって」

「なんだそりゃ」

「だから言ったじゃない。デキの悪いオカルトまとめサイトって」

「緊張して聞いて損した。カルト宗教のうたい文句じゃないか」


 まあ俺を拉致った団体はカルト宗教なのだから当然ではあるが。


「ま、あんまり実りある内容じゃないと思うけど一応渡しとくわ」


 俺は陰謀論の怪文書を受け取り、鞄の中に仕舞う。

 気にならないわけではないが、今すぐ仲間を招集するほどのこともなさそうだ。現在進行形で陰謀が進んでいるわけでもない。というわけで俺は、本来やるべきことをやることにした。


「自炊しよう」

「えー、自炊かぁ」

「イヤか?」

「うーん……不健康な生活にちょっと慣れちゃって」

「なら尚更だろ。ていうかそろそろ戻さないか?」


 こういうオタク系の華も決して嫌いではないが、やはりそろそろいつもの調子に戻って欲しい。


「うーん……それなら、料理が好きな家庭的な感じにしてくれない?」

「おまえなんでファッション感覚で洗脳されるの楽しめるの!?」


 素でツッコミ入れてしまった。

 いやツッコミ入れるの正しいよな?

 普通そんなこと趣味にできないぞ。


「良いじゃない別に。ファッション感覚で洗脳できる人が目の前にいるからよ」

「いやいやいや、俺は不可抗力で……」

「不可抗力で、なに? あんなに弄んでおいて」


 華はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。

 うん、まあ、確かに弄んだ。

 感じている華を見て俺もまた興奮を覚えたのは事実だ。


「ただ、家庭的になるっていうのも、ちょっとなぁ」

「え、もしかしてそういうの、嫌いなタイプ?」

「そういうわけじゃないんだが……多分服の趣味も家庭的な感じに変わるよな?」

「それがどうしたの?」


 モンスタークレーマーだった女の子がいきなりお淑やかな外見になったら、ちょっと変な男をおびき寄せることになったりしないだろうか。


 サブカルファッションならばそれはそれで異彩を放っていたが、わかりやすくガーリーなファッションになったら勘違いする男が絶対に出てくる。これまでの華の所業を知ってる男ならばともかく、それを知らない人間であればどういう反応するかはわからない。


「可愛すぎるからストーカーとか出るぞ」

「えっ」

「いや、今もアイドルより可愛いんだがな。ただ、変な男を惹き付ける気配ってあるじゃないか?」


 萌え袖で連続ビンタされる。


「いや冗談とかじゃなくて、女の一人暮らしで変な男を惹き付けるのは危険だって」

「大丈夫よ。握手した瞬間に手首の関節外せるし、後ろから抱きつかれても背中側からの体当たりで五メートルくらいは吹き飛ばせるわ」

「なんで柔道かじっただけの女の子が八極拳使えんの?」

「ともかく、なんとかなるわよ」


 うーん、まあ確かに俺が心配することでもないか?

 そもそも俺と華が並んで不良に絡まれたとして、華ならば三秒で十人くらい倒せる。超能力みたいな反則を抜きに考えるならば、間違いなく俺は守られる側だ。


「それに、私がまた違うキャラになって料理とか家のことを覚えるのは良いことなのよ。私がこのまま不健康なインドア生活続けるのも良くないじゃない? まあパソコンいじりも楽しいことは楽しいんだけど、どっぷりハマったままもマズいって自覚もあるし」

「健康を目的にするくらいで洗脳受けないでくれ」

「ともかくお願いよ。色々助けてあげたんだから、ご褒美をお願いするくらい悪いことじゃないでしょ?」

「ぐ……お願いされると断りにくい」


 このくらいで『私利私欲にならない』と心理的抵抗を突破するのはちょっと疲労がたまるんだが、諦めてやってやるとするか。


 そう言って華は俺を部屋に招き入れ、ベッドに腰掛けた。


 小一時間ほど掛けて今まで掛けていた華の催眠を解き、そして新たな催眠を付与した。




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