新生・弥勒門華 5
「おい彦一……。弥勒門さんは一体何してるんだ?」
昼休みにこそこそ話しかけてきたのは、田中だった。
彼が指を指す方向には、華がいる。
本を開き、集中して読んでいる。
「勉強……だな」
「そりゃ勉強だろうよ。あれだけ本がありゃ誰だってわかる。でも学校の勉強じゃないだろ?」
田中の言う通り、華の机にはどさりと本が積み重なっていた。
その内容は偏っており、異彩を放っている。『漫画でわかるパソコンの構造と解説』、『よくわかる情報処理』、『超速JAVA入門』、『かんたん電子回路』、『暗号化とはなにか』などなど、すべてパソコン関係の本だった。
「俺が聞きたいのはなんでいきなりパソコンマニアみたいになってるんだってことだ」
「ちょ、ちょっと色々あってな……」
「どうも弥勒門は変貌が激しすぎてわからねえ……。昨日なんて面と向かって謝られたし」
「そこは素直に受け取ってくれ」
俺の頼みに、田中は何とも微妙な表情を浮かべた。
「そうしたいのは山々だがな。俺だってお前ほどじゃないがあいつの悪行や暴れっぷりは見てきてるわけだし」
「おい田中」
「いきなり信じろって言われてもだな……」
「だから田中」
俺は田中の名を呼びかけるが、自分の話に夢中になった田中は気付かない。
ああ、遅かった。
「うん、そういう気持ちはわかるわ、田中くん」
「ひえっ!?」
田中の口からひどく哀れな悲鳴が漏れた。
あーあ、華が背後に来たって教えてやろうと思ったのに。
「ずいぶん根を詰めてるみたいだが大丈夫か? 昼飯くらい食べようぜ」
「集中してるからあんまりお腹減ってないんだけど、彦一が言うなら」
「集中してるからちょっと心配なんだよ。なんか買ってくるか?」
「お願い。本読みながら食べられるなら何でも良いわ」
「んじゃ、サンドイッチあたりで良いか」
久しぶりにパシリ精神を発揮して、俺は自分用と華の二人分の昼飯を買ってきた。
華はその間も黙々と本を読み続けている。
と思ったら、小さなノートパソコンを持ち出してカタカタとキーボードを叩き始める。
昼休みの終わりのチャイムにも気付かない。
「え、えーと……弥勒門? 授業始まったんだけど……」
「すみません、少し忙しくて」
ガン無視という程ではないが、華は一切気にせずパソコンに向かい合っている。
そんな調子で今日の授業は終わった。
「んっ……疲れた」
「お、おう。お疲れ。今日はどうする?」
「今まで迷惑かけた人を捕まえてお詫びするわ」
「今日もか?」
「うん。この学校の人はそれで大体終わり。あと土日で迷惑かけたお店に行って、居場所がわからない人とか、ちょっと洒落になってない被害受けた人は弁護士と相談して話を詰めるつもり」
「本気だな」
そして、立ち回り方も上手い。
学校を卒業した後のことを考えると、今までの悪事はまとめてきっちり謝罪した方が良い。華はどんな世界であっても輝くことができる。だが現代において、足を引っ張られるようなことがあれば社会的な立場など吹き飛びかねない。
弥勒門財閥にそのまま就職するのであれば表に出ず影の権力者のようにもなれるだろうが、表舞台で炎上を恐れてこそこそ立ち回らなければいけないことには変わりない。そして俺個人としても華にはこれまでの悪事を償い、そして何の憂いもなく才能を活かして輝かしい未来を羽ばたいてほしい。
「あ、それと買い物付き合って」
「ああ。どこに行く?」
「秋葉原」
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