超能力者 蝗塚白眉 2
「うん、久しぶり……っていうか、だらしないよ」
白眉が指を弾くと、俺の体が宙に持ち上がる。
そして俺が寝そべっていた場所を白眉が奪い取るようにして座った。
「言ってくれれば場所は譲るんだから横着するな」
「おや、失礼」
その言葉と共に、俺の体が床に落ちた。
これこそ白眉のもっとも得意とする超能力、念動力だ。その他、火や電気を起こしたり、物質や自然に干渉するパワー全般を使うことができる。精神干渉を得意とする俺と正反対のポジションと言えよう。
白眉はその恐ろしくも頼れる力を振るい、俺を救ってくれた大事な恩人だ。一ヶ月前、俺が超能力に目覚める切っ掛けとなった拉致事件の最中で出会った大事な仲間の一人というわけだ。
「……ところで、一つ聞いてよいか?」
「なんだい?」
「なんでゴスロリ?」
「趣味」
趣味。
ああ、うん、それなら仕方ないな。
「へ、変かな?」
「いや綺麗だし格好良いぞ。お前の私服は見たことなかったし、驚いてるだけだ」
「ふふん、キミも美というものがわかるようだね。
「ああ、そういえば鹿歩はどうした?」
白眉は空を飛んだりスプーンを曲げて蝶結びしたり、指で弾いて自動車やコンクリートを真っ二つにしたりはできるが、瞬間移動や物質転送の能力は持っていない。それは別の仲間……
「学校の宿題やってるよ。今忙しいから転送ゲートだけ作ってもらった」
「なるほど……けど、なんで鏡から出てきたんだ? 普通に転送してもらえば良いだけだろ?」
「格好良いじゃないか」
「お、おう」
白眉は妙に超能力者しぐさが好きなんだよな……。
百円玉やコインを電磁誘導で飛ばそうとしたり、電気を発生させてワイヤーアクションできないか試したりと、フィクション作品の真似をよくやってたものだ。だがありのまま念動力を放つのが一番強いと判明して落胆していた。
「ところで、何飲む?」
白眉がビニール袋からペットボトルを取り出した。
緑茶、コーヒー、紅茶の三本だ。
「ノンシュガーのやつ」
「ない。全部砂糖入り」
「緑茶も!?」
「海外で買ってきたからね。ていうか砂糖絶対に入れないなんて日本くらいさ」
「じゃあ緑茶飲む」
「キミもよくわからないところでチャレンジャーだね……」
なら買ってくるなよとは思うが、好奇心が勝った。
俺が一口飲む間に白眉はパンプスをビニール袋に入れ、勝手に本棚から本を取り出した。くつろぐ気満々だ。
「おいおい、漫画読みに来たのか?」
「良いじゃないか。へえー、こういうの読むんだ。ところで、美味しい?」
「牛乳入れたくなる」
「確かに、抹茶ラテの方が美味しそう」
「そうだな……って、話があって来たんじゃないのか?」
「話や弁明はあるのは、僕じゃなくてそっちじゃないかな?」
白眉は俺の顔を見てにやっと笑う。
「な、何のことだ?」
「とぼけるのはよくないなぁ。あの弥勒門財閥の再編っていうのは、彦一が原因じゃないの?」
「……お見通しか」
「みんなで決めたはずだよ? 『私利私欲のために超能力は使わない』と。あからさまにおかしな事件がニュースで流れてるんだから流石にキミを疑っちゃうよ」
「いや、まったくだ。あ、でもちゃんと暗示は俺自身に効いてるぞ」
「ホントに?」
俺たちの能力は、自分で言うのも凄まじいものだ。だから俺たちは超能力を悪用したり、社会を破壊したりするのはやめようとルールを作った。
だが、ただルールだけがあっても意味がない。俺たちは法律を破ろうと思えばいくらでも破れる。契約書だって意味を持たない。牢獄に入れられようが、罰金を課されようが、現代社会が決めるような罰則など超能力を発揮させてしまえば逃げることができるのだから。そこで俺は強制力を働かせることにした。
完全な自分のワガママで超能力を発動させようとすると、心理的なブロック……つまり、罪悪感やストレスが強く湧き上がる。これは俺自身も例外ではない。
「本当だって……そこまで強い暗示じゃないんだが。抵抗しようと思えばできるし」
「そうだね、縛りが強すぎるとそれはそれで自分の首を締める。緊急事態で超能力が使えないのもマズいからね。だからこうしてお互いの様子を監視して相談しあう。彦一は忘れたかな?」
「忘れちゃいないが……漫画読みながら片手間で聞くなよ」
「彦一は漫画の趣味が悪くないからね。だから僕が耳を傾けたくなるよう、面白おかしく説明してね」
既に白眉は、数冊手に取って傍らに置いている。
こちらの要求を聞くつもりはなさそうだ。
「仕方ないな……」
俺は諦めて、自分の身に起きたことを説明し始めた。
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