超能力者 蝗塚白眉 1
「……疲れた」
華の新居の準備でこんなに疲れるとは思いもよらなかった。これまでパシリのように華に付き従っていたときとは別の疲労感がある。
肉体的には疲れていない。精神的な疲労だ。これまでは荷物を持ち、華の先回りをして店員にあれこれ注文し、そして華が無茶なことを言い出さないように四方八方に注意を払うのが日常だった。
だが今回は逆だ。華は自分の買い物をすると言いながら、俺に対して大盤振る舞いしようとしていた。百貨店では男性向けの高級アパレルショップや時計店に連れて行かれて俺が着せ替え人形になったり、華の家具を買うはずなのに何故か「ベッドはどれが良い? 自分に合った物を選ぶと良いわよ」などと決定権を預けてきたりと、意味不明なまでに貢がれそうになった。
お茶やランチを奢られる程度ならまだしも、ブランド物の服や高級腕時計を与えられても俺にはどうしようもない。「学生服にはあんまり高級すぎても身の丈に合わないわよね。こっちが似合うんじゃないかしら」と言われても、華が示したものはタグなんとかというブランドの数十万の時計だ。腕がこすれてあまり趣味じゃないと嘘をついて断ったが、次は押し切られて何か買ってもらってしまう気がする。どうしよう。
とはいえ、完全に華の鼻っ柱が折れて引っ込み思案になったわけではない。高級家具を買う際に店員に細かく注文を付けるし、値引きできそうな要素があれば懇々と話を重ねて条件を詰めた。生来の押しの強さに加えて、引き際や譲歩するべきポイントを見抜いて使いこなすようになった分、買い物や交渉が上達したと言って良いだろう。これは明らかに成長だった。
そんな疲労感と感慨を抱きながら、自分の家のベッドにばさりと倒れ込んだときのことだった。
『ずいぶんとお疲れじゃないか』
俺の頭の中に「声」が届いた。
落ち着きながらも、どこか愉悦をはらんでる、そんな女性の声だ。
そろそろ来ると思ってたよ。
『よう、一ヶ月ぶりくらいか? 元気か?』
俺もテレパシーで応じた。
俺と仲間たちは精神で繋がっているため、いつ、何時でもテレパシーで会話できる。
……と表現すると意味深だが、端的に言えばアドレス登録したようなものだ。
『もちろん。キミみたいにへばってはいないよ』
『なによりだ』
『今からそちらへ行くけど良いかな?』
『これからか? いや構わないが』
俺が不満を口にしようとしたあたりで、俺の部屋に立てかけてある姿鏡がぼやけた。
そして、鏡は鏡の働きをしなくなった。
鏡を見つめる俺の顔がかき消えた。
そのかわりに、黒髪の女性の顔が浮かび上がった。
「ここが彦一の部屋か。意外と片付いてるじゃないか」
そして女性は、鏡の中から俺の部屋へと入り込んだ。
少年のような言葉遣いをしているが、まるで人形のように繊細な佇まいをしていた。
長いストレートの黒髪はきめ細かく艶やかだ。
服はモノトーン基調で、装飾過多なレースのワンピース。
リボンの付いたパンプスは脱いで、黒タイツの足で俺の部屋の絨毯を踏みしめている。
一言で言えば、ゴスロリだ。
「顔を合わせるのは久しぶりだな
その少女の名は、
俺と同じ、超能力者だ。
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