僕らの告白、絶叫系
「僕はああぁぁぁッ!!
いつからだろう。
学校の授業が終わると、真っ先に裏山に登り、そこで思いの丈を思いっきり空にぶつけるようになったのは。
「僕はああぁぁぁッ!!
誰も聞く者はいない、孤独な叫び。
その絶叫に、木に止まっていたカラスが飛んでった。
……いや、逃げてった。
バサバサバサと大きな音を立てて。
なんだこいつ、と言わんばかりの態度で。
あまつさえ「カア」とバカにしたような声で。
僕はそんなカラスを見つめながら「はあ」とため息をついた。
そう、僕は今、恋をしている。
隣のクラスの山中美里に。
学園一の美少女と謳われている彼女に。
可憐で清楚でおしとやかで。
誰もが認める美貌の持ち主で。
その上、優しくて賢くて礼儀正しくて。
もしも完璧人間というものがいるとしたら、それはまさに彼女のことだろう。
正真正銘、学園のアイドル。
教室の隅っこで本ばかり読んでる僕には高嶺の花すぎる彼女。
当然、告白どころか声をかけたことすらない。
でも「好き」という気持ちは抑えられなくて、こうして毎日学校の裏山に登っては空に向かって叫んでいる。
誰かに聞かれるかもしれないという恐れはあった。
けれども、帰宅部の連中が行きそうなアーケード街は反対方向だし、それ以外はほぼ部活動の真っ最中。
よほどのことがない限り、ここまで来るようなことはない。
現に毎日僕はここで叫んでいるけれど、誰かに聞かれるようなことはなかった。
……まあ、もともとの声が小さいというのもあるかもしれないけど。
ともかく、僕のルーチンワークは放課後、学校の裏山で山中美里への愛の告白を叫ぶというものだった。
きっとクラスのみんなが聞いたらドン引きすることだろう。
現に、カラスですらドン引きして逃げてった。
でも僕はこの毎日のルーチンに願掛けをしていた。
これを続けていれば、そのうち本当に想いが通じるんじゃないかと。
好きな人と結ばれるんじゃないかと。
そんな信憑性の欠片もないようなことを信じていたのだ。
そんなこと、あり得るはずもないのに。
それでも。
これをやり始めてから今日まで、毎日欠かさず行っている。
平日はおろか土日・祝日も含めて毎日だ。
やめようと思ったことはない。
やめたいと思ったことも。
いや、やめられなくなった、というのが正しいのかもしれない。
途中でやめるとなんだか中途半端で気持ち悪い。
そんな他愛もない理由で今も続けている。
だから、このルーチンはきっと卒業するまで続くのだろう。
今日も元気よく叫び終えた僕は、意気揚々と下山を開始した。
この裏山は頂上から麓までは10分もかからない。
ほんとうに大したことのない山なのである。
そんな山道を下りていくと、どこからともなく耳をつんざく叫び声が聞こえてきた。
「私はああぁぁぁッ!!
透き通った高い声だった。
一発で女子の声だとわかった。
すぐに声の方に向かって歩き、茂みから覗き込んだ。
声がしたのは裏山の脇道にそれた先にある大きな広場だった。
街を見下ろせる、小高い場所だ。
そこに一人の女生徒がいた。
「私はああぁぁぁッ!!
服装からして同じ高校の生徒のようだった。
長い髪の毛を頭のてっぺんで結っている。
その特徴的な髪形を見て、すぐにわかった。
あれは、2年4組の
神社の娘で、よく巫女さんとして働いてる。
何をしてるんだろう。
と思ったものの、すぐに首を振った。
さっきの叫びを聞いたら彼女が僕と同じことをしていたなんて明白だ。
というか同じことをしてる人がいたという事実にびっくりしている。
「ふう」
姫香はスッキリした顔で僕に顔を向けた。
思わず目と目が絡み合う。
彼女は「あ」と口を開いた。
僕も「あ」と口を開く。
互いに見つめ合う僕ら。
彼女はぷるぷる震えながらこちらを指差すと……。
「ぎ、ぎぃやああああああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
はい、今世紀最大の叫び声をいただきました。
※
「もう、いるならいるって言ってよね」
あの後、ぎゃーすか文句を言い放つ姫香をなんとかなだめつつ、僕らは一緒に裏山を降りた。
「僕だって、まさかこんなところに人がいるだなんて思いもしなかったんだもん」
「ううう……別のクラスの男子に聞かれてたなんて。もうお嫁に行けない」
大げさだなあ、と思いつつもそれをツッコめないところが僕のコミュ力の低さだ。
「これで結婚できなかったら、責任とってよね」
「へ、返答に困ること言わないでくれる?」
姫香とは別のクラスということもあってあまりしゃべったことはない。
しゃべったことはないけれど、かなりハッキリ物を言うタイプだということはわかった。
「ところでさ。君が叫んでた青柳省吾って、あのサッカー部の青柳省吾?」
「そうよ。他に誰がいるっていうのよ」
「誰もいないけど……」
青柳省吾といったら、2年生ですでにサッカー部のエースストライカーに選ばれ、毎試合得点をあげているというとんでもないヤツだ。
身体能力もさることながら、それでいてイケメンで女子にモテるというまさに男の天敵。
神様は二物を与えないだなんて、誰が言ったんだか。
「……で、あなたは? 室井純太くん」
「僕の名前、知ってるの?」
「普通知ってるわよ。同じ学年なんだから」
同じ学年でも、しゃべったことのない僕の名前を知ってるということが少し嬉しかった。
「誰の名前を叫んでたの?」
「お、教える必要ある?」
「あるに決まってるじゃない! 私のを聞いといて自分のを教えないなんて卑怯よ! 答えなさい!」
卑怯ときたもんだ。
別に無理やり聞いたわけじゃないんだけど……。
と思いつつも、確かに自分だけ言わないのも気が引けたので、そっと相手の名前をつぶやいた。
「や、山中……」
「ん?」
「山中……美里……」
「山中美里って、あの?」
あの? って言われても。
「どの?」
「3組の学級委員長の」
「う、うん……」
「へえー。ふうーん。そうなんだー。へえー」
……なんなんだ、いったい。
「可愛いもんね、彼女」
「わかってる。僕なんかじゃ彼女と釣り合わないって。だから一人で裏山で叫んでたんだよ」
「ちょっと! 釣り合う釣り合わないなんて誰が決めたのよ!」
「誰がって……」
「別に誰が誰と付き合おうと勝手じゃない!」
「そ、そうかな?」
「そうよ。告白もしないであきらめないでよ!」
ぴしゃりとはっきり言う姫香のその言葉は、なんだか自分に言い聞かせてるように感じた。
「私はね、告白するって決めてるんだ」
「青柳省吾に?」
「うん。だから毎日ここで練習してるの」
「あの叫び声で告白するの?」
「インパクトあるでしょ」
確かにインパクトはある。ちょっと引くかもしれないけど。
「でもなかなか勇気が出なくてね」
「わかるわかる」
「お、わかる?」
「僕だって告白はしたいよ。でも、本人を前にするとしゃべることもできなくて……」
「ふふふ、まさに類は友を呼ぶ、だね」
「それ意味違くない?」
「ね、ね。それじゃあさ。お互いに練習しない?」
「れ、練習?」
「そ。告白の練習。さっきの私みたいに」
「それって、向かい合って叫び合うってこと?」
「そうそう! 相手がいたら張り合いあるでしょ?」
ちょっと待て。
それ、本気で言ってるのか。
お互い向かい合って叫び合う?
バカじゃないの?
「冗談でしょ」
「これが冗談言ってるように見える!?」
姫香は目を爛々……というよりギンギンに光らせて僕に詰め寄った。
ああ、本気だ。この目は本気だ。
「……もし断ったら?」
「あなたの好きな人の名前を全校生徒に言いふらします」
「ひいっ!」
なんて鬼畜!
そんなの断れないじゃないか!
「どう?」
「う……。わ、わかった……」
「やった! じゃあ、明日から毎日放課後ここで合流ね!」
そう言って彼女は猛ダッシュで裏山を駆け下りていった。
さすが神社の娘。
山道は慣れっこのようだ。
僕はすでに小さくなっている姫香の後ろ姿を見て、ため息をついた。
※
それからというもの、僕らは毎日学校の裏山でお互いに告白の練習……もとい、向かい合っての絶叫を行っていた。
「僕はああぁぁぁッ!! 山中美里があああぁぁぁッ!! 大好きでええぇぇぇぇすッッッ!!」
「私はああぁぁぁッ!! 青柳省吾があああぁぁぁッ!! 大好きいいいぃぃぃッッッ!!」
端から見たら、異様な光景だろう。
なんせ男女が向かい合って好きな人の名前を叫びながら告白しているのだから。
「僕はああぁぁぁッ!! 山中美里をおおおぉぉぉッ!! 愛してまああぁぁぁぁすッッッ!!」
「私はああぁぁぁッ!! 青柳省吾をおおおぉぉぉッ!! 愛してまああぁぁぁぁすッッッ!!」
お互いにお互いの顔を見て叫ぶ。
なんだか劇団員が練習をしているかのようだった。
劇団員の練習がどんなものかは知らないけれど。
何度目かの練習のあと、姫香が「ちょっと休憩」と手を上げた。
僕も一日にこんなにも叫ぶなんて初めてだったので、それには賛成だった。
ハアハアと肩で息をしながら座り込む。
でも、なんだかすごく清々しい気分だった。
姫香もへたり込みながら空を見上げて言った。
「やっぱり二人でやると、張り合いあるね」
「そ、そうだね……」
息を整えながら同意する。
確かに一人で叫ぶよりはるかに楽しい。
孤独感というのをまるで感じない。
それは姫香も同じようで、「相手がいると楽しいもんだね」と笑っていた。
「でもさ、純太って意外に声大きいんだね」
「大きい?」
「うん、めっちゃ大きい」
「そうかな。自分では気づかないけど」
「普通にしゃべるとひどいよ。聞き取れないもん」
「そ、そうなの?」
「めっちゃ小さい」
「どれくらい?」
「モスキート音くらい」
「そこまでひどい!?」
僕のツッコみに、姫香は「ぷぷっ」と笑った。
「あははは、冗談冗談。てか、ツッコみもするんだね」
からかわれただけだとわかって、僕は「ぶー」とむくれた。
「ごめんごめん。でもびっくりだよ。君があそこまで大きな声を出せるなんて」
「どうせ似合わないとか言うんでしょ」
「そんなことないよ。……カッコいいよ」
「へ?」
カッコいい?
カッコいいと言ったのか?
思わず姫香の顔を見ると、彼女は「さてと」と言いながら立ち上がった。
「告白の練習、再開しますか」
僕はそれ以上の言葉を聞けないまま、姫香に言われるがままに立ち上がった。
僕らの告白の練習は、それから何日も何日も続いた。
雨の日も、風の日も、当然休みの日も、欠かさず練習を繰り返した。
もはや練習というよりも、二人の共同ルーチンのようになっていた。
姫香は「告白する」という前提で練習をし続けていたけれど、告白する気配がまるで感じられなかった。
もしかしたら、このまま告白しないんじゃないか。ふとそう思うこともあった。
でも、それならそれでいいと思った。
告白の練習漬けの毎日。
彼女の恋が成就すれば、僕らのこのやりとりはなくなるわけで。
それはなんだか寂しかった。
できれば、卒業まで続けたい。
それが僕の本心だった。
変化が訪れたのは、それからしばらくしてからだった。
姫香が突然、裏山に来なくなったのだ。
いつものように裏山の入り口で姫香を待っていた僕は不思議に思った。
待ち合わせ時間を30分も過ぎているのに彼女はいっこうに姿を現さない。
放課後のHRはとうに終わっている。
少し長引いたとしても、そろそろ来てもいい時間のはずなのに。
彼女は姿を現さなかった。
どうしたんだろう?
気にはなったものの、日頃のルーチンを壊したくなかった僕は、一足先にいつもの場所に行って一人で告白の練習をした。
「僕はああぁぁぁッ!! 山中美里があああぁぁぁッ!! 大好きでええぇぇぇぇすッッッ!!」
たった一人で空に向かって叫ぶ。
姫香と出会う前まで毎日やっていたことなのに、なぜか虚しく感じた。
「僕はああぁぁぁッ!! 山中美里をおおぉぉぉぉッ!! 愛してまああぁぁぁすッッッ!!」
誰もいない空間に、僕の声だけがこだまする。
彼女はいつまで経ってもやってこなかった。
「僕はああぁぁぁッ!! 山中美里があああぁぁぁッ!! 大好きでええぇぇす……」
徐々に僕の声も落ちていった。
虚しさだけが募って行く。
「姫香……。なんだよ、どうして来ないんだよ……」
いつもいたはずの彼女がいない。
それがたまらなく寂しくて、もどかしくて、そして悲しかった。
僕はその日、数か月ぶりに一人で山を下りた。
※
翌日、僕は昼休みに4組のクラスに行って姫香の姿を探した。
自分のクラスでも浮いてるのに、隣のクラスに行くというのはものすごく緊張したけれど、探してる人物はすぐに見つけることができた。
窓際の席。
彼女はその席でポツンと窓の外を眺めていた。
僕は少しためらいながらも中に入り、姫香のそばまで歩み寄った。
まわりからは「なになに?」と微妙な空気が漂い始めている。
「姫香」
「純太……」
姫香は迷惑そうな顔もせず、僕を見上げた。
心なしか、元気がないようにも見える。
「ちょっと、いい?」
「うん……」
僕らの行動に、クラス中がざわついた。
確かに端から見ればワケありのカップルに映るだろう。
僕はそそくさと彼女を連れて屋上に向かった。
昼休みの屋上ほど、危険な場所はない。
と思ったけれど、幸いそこには誰もいなかった。
僕はすぐに姫香に向かい合うと、単刀直入に聞いた。
「昨日は……なんで来なかったの?」
「純太に言う必要、ある?」
その一言に、僕は一瞬カチンときた。
姫香の態度はとても冷たかった。
「あるよ! だって僕ら、毎日告白の練習してたじゃん。告白のために頑張って叫んでたじゃん!」
「それ、もう必要なくなったから……」
「なにそれ。必要なくなったって」
「もう、いいの……。意味ないの……」
「なに? どうしたの?」
目の前の姫香は初めてしゃべった時の明るさは影をひそめ、今はなんだか死んだ魚のような目をしていた。
まさか、と思った。
いや、それ以外考えられないとも思った。
「私……私ね……フラれちゃったんだ……」
やっぱり。
その瞬間、姫香はポロポロと涙をこぼし始めた。
あんなに明るくて元気だった彼女が、口をへの字に曲げて両の目から次から次へと涙を流していた。
女の子の涙を目の当たりして、僕もどうしていいかわからなくなった。
「本当は……告白する気なんてなかったんだよ……? でも放課後、急に青柳くんがやってきて……。オレに何か言いたいことあるだろって……」
なんだそれ。
もしかして、彼女が青柳省吾のこと好きだっていうの、本人は気づいてたのか?
「だから私……私ね。あなたが好きって言ったの……。練習の時とは違う、ちっちゃな声で……」
「うん、そしたら?」
「迷惑だって……。私みたいな女の子、全然好みじゃないって……そう言われたの……」
瞬間、「うわあああん」と両手で顔を隠しながら姫香はむせび泣いた。
僕の胸に飛び込みながら、肩を震わせて泣きじゃくった。
「フラれるってわかってた! 告白してもうまくいかないってわかってた! でも私、どうしても伝えなきゃって!」
僕はそんな彼女の肩をポンポンと叩きながら、はらわたが煮えくり返る思いだった。
青柳省吾は、初めから振るつもりで彼女に声をかけたんだ。相手に無理やり告白させて、主導権を握ったうえで振ったんだ。
きっと、告白される前に振ったら評判が悪くなると思ったのだろう。
最低なやり方だ。
僕は胸の中で肩を震わせて泣く彼女を見て、どう慰めていいかわからなかった。
ぎゅっと抱きしめればいいのか。
優しく言葉をかければいいのか。
まったくわからない。
きっとイケてる男とイケてない男の差はここで出るのだろう。
「姫香……」
「ごめん、ごめんね……。あんなに練習に付き合ってもらったのに……。たくさんたくさん、叫んでもらったのに……。本番でこれなんて……」
「いいんだよ、姫香」
僕は彼女の頭をポンポンと叩いてやった。
それ以外、何も思いつかなかった。
しばらくすると姫香は落ち着いたのか、スッと僕から離れた。
「ごめんね、純太……。もう、平気……。大丈夫だから……」
「そう?」
「私の恋は終わっちゃったけど……純太の恋は、叶うといいね」
彼女はそう言うと、涙を浮かべながら微笑んだ。
それは心からの、応援の笑みだった。
瞬間、僕は悟った。
ああ、そうだ。この笑みだ。
僕はこの笑みに毎日励まされていたんだ。
無駄じゃなかった。
あの練習は無駄なんかじゃなかった。
僕は瞬時に後ろに飛び退き、いつもの前屈姿勢で高らかに叫び声をあげた。
「僕はああぁぁぁッ!!」
「じ、純太?」
「熊井姫香があああああぁぁぁッ!!」
「へ?」
「大好きでええぇぇぇぇすッッッ!!」
「はいいぃッ!?」
「僕はああぁぁぁッ!!」
「ちょ、純太!」
「熊井姫香をおぉぉぉッ!!」
「なんなの?」
「心から愛してまああぁぁぁすッッッ!!」
「…………」
「ハアハアハア……。姫香、これが僕の今の気持ちだよ」
本番がこんなに緊張するとは思わなかったけれど、僕は生まれて初めて、好きな人に告白することができた。
そう、僕はいつの間にか彼女が好きになっていたんだ。
練習で叫んでいた名前ではなく、その叫んでいた相手のことが。
「じ、純太……?」
姫香は泣いてたことも忘れ、きょとんと僕を見つめている。
そりゃそうだ。
僕だって今まで彼女の事が好きだったなんて自覚してなかったんだから。
「あれ? 伝わらなかった? じゃ、もう一回……」
「ちょ、ストーップ! 待って待って待って! やめて、恥ずかしいから!」
彼女は言うなり、僕の真剣な眼差しを見つめて「ぷっ」と笑った。
「あははは! なにそれ? 本気で言ってるの? あはははは!」
「わ、笑うなよ……」
人の真剣な告白を。
「あはは……は……。本気なの?」
「本気だって! この目を見てよ!」
当たって砕けろの覚悟を決めたこの目を。
「えーと、どうしよう。なんて答えればいいのかなあ」
「なんでもいいよ」
「だって私、フラれたばっかりだし」
「だからなんでもいいって」
頼むから早く引導を渡してくれ。
「うーん。でも、フラれてすぐに彼氏が出来るっていうのもなあ……」
「あ、あれ!? もしかして可能性あり!?」
うっそ。
まさかの展開。
絶対にフラれると思ったのに。
「じゃあ、付き合ってくれるの!?」
「い、いや、それはちょっと……」
なんだよ、ぬか喜びかよ。
僕は「はあああ」とため息をついた。
「やっぱ、ダメかー」
「違う違う! ちょっといきなりすぎて混乱してるだけ」
「そうなの?」
「心の準備ができてないっていうか……」
「心の準備って……」
「えーと、んーと、そうだ! 今日からまた放課後、裏山で叫び合うっていうのはどう!?」
「さ、叫び合う?」
「あなたはさっきと同じセリフで。私は……2年2組の室井純太が大好きーって」
そこ、僕の名前になるの!?
「今までは告白の練習だったけど、今度は私があなたのことを好きになる練習をする。それでどう?」
「それでどうと言われましても……」
好きになる練習。
そんなの聞いたことないんですけど。
「大丈夫。私、あなたのこと好きになって見せるから。絶対なってみせるから」
告白を繰り返して好きになってみせるって……。
順序がまるっきり逆じゃないか。
ていうか、僕の告白は成功したのか? 失敗したのか?
どうなんだ?
「ダメ?」
「う、ううん、とんでもない!」
むしろ僕には願ったり叶ったりかもしれない。
なぜなら、好きな子に毎日絶叫級の告白をしてもらえるんだから。
最高級の幸せに違いない。
そこに気づいてるんだか気づいてないんだか、姫香は手を差し伸べて言ってきた。
「ということで、純太。今日からよろしくね」
「こ、こちらこそ、姫香」
彼女の柔らかい手を握り返しながら、僕は頷いた。
姫香はそのままスルスルっと僕の胸に飛び込むと、そっと背中に腕を回して「ありがと」とささやいた。
彼女の甘い匂いを感じながら僕は思った。
姫香への告白は、今まで以上の大声になりそうだと。
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