三、燎原

 雨上がりの空がやがて暮れる。

 薄明かりの蛍光灯の下でスマートフォンを見つめる夜子。

 部屋の白い壁紙にはシンプルな時計とカレンダーが掛けられているだけだった。

 静寂の中でそれは音もなく進行する。

 人の思いや出来事、そしてときには悲しみや苦しみも、もしそれらすべてを数式で表すことができたのなら、それを解いて誰かのことも助けることができたのだろうか。

 もう、やりたくないよ

 静かに音を立てている時計の針のすぐ裏で、それが聞こえた気がした。


 f'(x)=(x^2)'=2x, 50>x>0

について、夜子の場合

 x=17(x,明るさ)

のとき

 y=289, y'=34(y,価値、y',生命力)

木葉の場合

 x=43

のとき

 y=1849, y'=86

そして、この日の夜に取得された落第実数は、

 34.954

夜子の場合

 34.954-34=0.954

木葉の場合

 34.954-86=-51.046

すなわち、このときの夜子の落第確率は0.954パーセントになる。


 宿題をやる気にならない夜子は、その辺のノートにそのときの思うがままに書いていた。

 明るいとはいえない夜子ではあるが、根は闊達かったつな子だ。このときばかりは、まるで何かにあがなうかのように筆を取った。


 夜子の意思を汲んで数式をもし借りるとするならば、実際にはこうなる。


 f'(x)=(x^2)'=2x, 50>x>0

について、夜子の場合

 x=17(x,ドーパミン分泌)

のとき

 y=289, y'=34(y,運動性と覚醒度、y',発現抵抗)

木葉の場合

 x=43

のとき

 y=1849, y'=86

そして、この日の夜に取得された発現可能実数は、

 34.954

夜子の場合

 34.954-34=0.954

木葉の場合

 34.954-86=-51.046

すなわち、このときの夜子の発現確率は0.954パーセントになる。


 半紙を持ち帰ったことで、わずかに夜子の変数xは低い値をとったのだ。

 夜子はある考えを自らの中で解決させようとしてノートに落書きを並べた。

 何故、半紙を持ち帰ったことで変数xは下がったのか。

 夜子の部屋のスマートフォンに記録された検索履歴。

 「空 書道 剣道」

 そして閲覧履歴。

 「神棚の祀り方」

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