007 やりたいこと

 コンテナのある港でイクスザラとロボットとの戦闘が行われた日の翌日。その戦闘を見届けていたワイルドな風貌の男性が何処かの建物の部屋に入ってくる。

「お疲れ様。仕事が入ったぞ。火神かがみ

 長髪で眼鏡をかけた男性が部屋に入ってきたワイルドな風貌の男性に声をかける。

「あぁ、サンキュ。どんな内容?」

「これを見てくれ」

 火神と呼ばれた男性は眼鏡をかけた長髪の男性から書類を受け取る。

「これ前にうちと契約してたガス工場じゃん。ここがどうした?」

「俺たちがここに技術提供をしつつ、色々委託していただろ。ここ最近その技術を勝手に利用して何か作ってると情報が入った」

「それはいけませんね~」

 火神はどこかおちゃらけた様子で言葉を返した。

「だから、今回はその工場の開発・生産設備、データ類を徹底的に破壊すること。工場は広いから砲撃型二体を使用する。」

「あぁ、でも大丈夫か? ここって前に砲撃型で襲撃した金属加工工場の近くじゃん」

「それで?」

「あいつが来るんじゃね? 毎回出てくるとは限ららねぇけど、今回は条件的に出てきそうなんだよ」

「どうしてだ?」

「どうやったら、そいつが出てくるのか探ろうとして、さっきまで一回個体を出したことがる場所に適当な個体泳がしてたんだよ。もしかすると一度現れた場所は注意深く監視してるのかもしれねぇと思ってさ。そしたら、そいつが出てきて、その個体はやられちまったんだよ。今回のガス工場は一度出現した場所の近くだから、また出るかもと辺りを見張ってるかもしれねぇ。最悪二体とも何もさせずにやられるんじゃね?」

「確かに。まず、そいつの話を聞かせてくれ」

 火神は眼鏡をかけた長髪の男性に先ほど見てきた戦闘のことを話し始めた。


「カラスみたいコスプレをした人間が現れた前後から内蔵されたカメラからの映像は全てノイズが入り、自爆信号を送ってもかなり遅れてから自爆。しかも、そのカラスのコスプレをした人間は俺たちの作った装備を使用していた。大体こんな感じの認識でいいか?」

 長髪で眼鏡をかけた男性が、火神に確認をとる。

「あぁ、合ってる。お前はこれどう思う?」

「今まで無力化されて警察に押収された際、カメラからの映像は来なくなり、自爆信号も受診されず、今回も同一の事態が起きたことから、そのカラスのコスプレさんが今まで無力化させてきた張本人と考えて間違いはないと思う。あのアックスを使っていることから、警察や自衛隊が押収した装備を使うなんてとても考えられない。だから、あのレールガンが警察や自衛隊の手に渡っていない可能性が出たのは少し安堵した」

「まぁ、そいつも警察や自衛隊じゃなくても関係者かもしんないけどな。で、どうする?」

「俺としては自爆させて機密漏洩を防げるから、レールガンなんかのテクノロジーを搭載してきたわけだが。まぁ、困ったな。今はまだ修正がきくが、いずれ計画にも支障が出るぞ」

「だよな。だからさ、この際工場壊しつつ、あいつを倒しちまおうぜ」

「どうやって?」

「挙動の鈍いメカじゃ、運動性の問題で負けちまうから、陰から銃で撃ったりとかはどうだ?」

「そいつの戦闘服の防弾性が高くなければ、いいんじゃないか。やるか?」

「あぁ、やるわ」

 火神は淡々と答える。

「ただちゃんと装備を揃えて、こんな活動をしているやつに一発でも銃を撃ったことを気付かれれば、用心深いだろうし、次当てるのは困難だと思うぞ。警察や自衛隊じゃないなら、中身がプロの傭兵とかの可能性だってある。ちゃんと決められるか?」

「そう言われると不安だな。なら、保険かけるか。適当な個体使って自爆は無理臭いし、地雷でも仕掛けて殺すのはどうだ?」

「いや、爆発物を使うのはよそう。お前の話を聞くと、爆発物を操作する装備を持っている可能性が出てきた。俺にもそんな技術には心当たりはないが、ここまでやってくる人間だ。持っていてもおかしくないと俺は考えるが」

「う~ん」

 火神は悩みこんだ様子を見せるが、もう一人の男性はハッと何かを思いついた様子を見せた。

「今までのやつの行動は基本的に無力化させて、装備を奪う。そこまでだ。残骸などの後処理は警察任せ。そうだよな?」

「まぁ、今回みたいに海に落として爆発させられるかもしれないけど」

「つまり、やつは周囲や残骸を回収する警察に危害が出ない状態にすることを目的としている可能性が高い。なら、その残骸に周囲に危害を与えるものにする。そうすれば、やつは残骸の処理をしなければならない」

「じゃあ、残骸を処理させるように誘導して、その残骸に処理したらやつが死ぬようなものを仕込むってことか? 爆弾は使えないよな。化学兵器は目に見えないから、危害があると分からなくて、放置して帰りそうだし」

「遊びも兼ねて作った装備がある。周囲にそれなりに危害は与えるし、爆弾も化学兵器でもない上、殺傷能力は十分だ。それを装備した個体とお前の射撃でやつを殺す。早速準備に取り掛かるから、待っててくれ」

「はいよ。待ってま~す」

 そう答えた火神は部屋を後にする。



 港でロボットと交戦した日から一週間後、紫夜しやは大学の食堂で考え事をしつつ、昼食をとっていた。

(あのロボット、特に周りに危害を与えている様子はなかった。なんであの場所で何をしていたんだろう。警察をおびき出すため? いや、それとも・・・)

 そのとき、彼の横に一人の男子生徒が座る。

「よぉ、山海。一緒に隣で飯食ってもいい?」

「あ、鎌倉。いいよ」

 声を掛けてきたのは、紫夜と同じく工学部の学生であり、工学研究会のメンバーでもある鎌倉裕也。彼は学食のカレーを載せたトレーを手にしながら、紫夜の隣に座る。鎌倉は首にかけていたヘッドホンをテーブルの上に置くと、カレーを食べ始めた。それを見ていた紫夜が鎌倉に声を掛ける。

「いつも思うけど、高そうなヘッドホンしてるよね」

「あ、これか。まぁ、高いっちゃ高いかな。ホントはスピーカーで音楽聴きたいけど、迷惑かかるから、ヘッドホン使うけど、やっぱいい音で聴きたいから金は惜しまないよ」

「俺はそんなにイヤホンとかヘッドホンとかこだわりないから、ここまでの使ってるだけでもなんかすごいって思う」

「お前もいいの使ってみたらどうだ? 世界変わるぞ?」

「いや~、勇気ないな」

「まぁ、いつか使ってみるといいさ。そういや、お前今度鋼鉄の研究するの? またテーマ変えて大変じゃね?」

 紫夜は返答するまで少し時間がかかった。

「うん。なんかさ、どのテーマやってもみんなの熱意とかに負けてるなって。だから、テーマ変えたらみんなと同じくらい熱意のあるものになるかなって」

「俺はそんな熱意ないけどな。ただもっと音楽楽しみたいから、スピーカーの研究したいだけ。サークル入ったのも、いい機材使えたり、サークルのメンバーのレベル高くて、色々教えてもらえるからってだけだし」

「それでもスピーカーというものに、こだわりや熱意とかあるの伝わるし―――」

「なぁ、お前は自分の研究で何がしたいんだ?」

 鎌倉は紫夜の言葉を遮りながら、問いかける。

「え、そうだな・・・。誰かの役に立ちたい研究がしたいかな・・・」

「俺は音楽をもっと楽しみたいから、スピーカーの研究し始めようと思った。目的決めて、やること決めた。なんかお前は目的あるけど何か間違ってると思う。人の役に立ちたいより、周りと同じくらい熱意があって、高いレベルの研究することが目的になってない?」

「それは・・・」

 紫夜は鎌倉の言葉に納得した。

「人の役に立ちたいっていっても色々あるじゃん。その中でお前が一番熱くなれるものを探してみたら? なんか上手く言えてるかわからないけどさ、そうしたら見つかりそうな気がする」

 鎌倉のその言葉の後、間を置いて紫夜が返事をする。

「・・・。ありがとう。周りばかりを見てるうちに、自分の本当の目的を忘れてたんだなと思った。色々と考え直してみるよ」

「おう」

 二人はそのまま雑談を交えながら、昼食を食べ、昼休みを過ごした。


 紫夜は講義を終えた紫夜は、アパートに帰り荷物を置くと、イクスザラの装備がある防空壕に向かうため、準備を始めた。ここ数日ずっと解析や修繕、改造をしていたレールガンに今日も用事があるのだ。そのために必要な荷物を持った紫夜はアパートを出て、駐輪場で原付のエンジンをかけようとすると、

「山海君~」

 とお隣さんの優莉ゆうりから声を掛けられた。彼女は食料品が入ったエコバッグを手にしている。買い物帰りだろうか。

「これからどこかにお出かけ?」

「うん。ちょっとね。講義終わってサークルもないしね」

「あ、山海君もサークル入ってたよね。工学研究会だっけ? すごいことやってるんだよね」

「いや、俺はそんな大したことやってないよ。まだこれから自分のやりたいこと見つけるとこだし」

「そうなんだ。見つかるといいね」

「うん。ホントに早く見つかってほしいよ」

「あ、そういえばさ。こないだ夜中大丈夫だった?」

「こないだ?」

「夜中にうめき声というか、何か吐いてるというか」

 先日の砲撃型のロボットとの交戦から帰ってきた紫夜は声を上げて、とにかく吐いていた。そのときの声や音が隣の優莉の部屋に聞こえてしまったのだろう。

「あ、あのときは気持ち悪い音出してごめん。今度から気を付ける・・・」

「いいけど、何かあったら言ってね。お隣さん苦しんでるのに何もしないのもアレだし」

 心配そうな声で優莉は紫夜に言う。

「うん、ありがとう」

 紫夜は感謝の気持ちを述べた。

「ちなみに何であんな苦しんでたの?」

「いや、なんか色々とやることやってたらああなって・・・」

 彼は上手く誤魔化せない。

「えぇ・・。そこまでしてやることってなんなの・・・」

「ん~、まぁ、サークルとか・・・。さっき言ったけど、今やりたいこと見つけなきゃいけないから、そのために色々本とか論文読んだり、ネット漁ったり・・・」

「それだと卒論書く時期は毎日吐いてそうだね」

「うん・・・。そうなるかも・・・」

 彼は嘘が下手だ。

「う~ん、やりたいことか~。私だったら、色んなことやってみて、他よりもやりがい感じたものをもう少しだけやってみて、それでまだやりたいって思ったら、それを本気でやろうとするかな」

「・・・。なんか具体的なアドバイスありがとう・・・。すごいわかる気がした」

「いえいえ。こんなのが参考になれば、こっちも有り難いよ。足止めてごめんね。じゃ、またね」

「あ、うん、それじゃ」

 二人は別れ、優莉はアパートの自室へ、紫夜は原付で防空壕へ向かった。


 防空壕に着いた紫夜は鹵獲したレールガンに様々な部品を取り付けていた。イクスザラのアーマーに備わっているハードポイントと同規格のパーツやケーブルなどだ。

(あとは装飾品・・・、黒の塗料使い切ったか。全体銀色だとコスプレ感薄れるし、余った塗料でそれっぽく塗るか)

 彼は自作の鳥の羽根のような部品に赤い塗料のスプレーを吹きかける。塗料が乾くと、その部品をレールガンとそのエンジンに取り付けた。

(これで完成)

 砲撃型のロボットから鹵獲したレールガンとそのバックパックは、修繕と改造を施され、イクスザラの装備として生まれ変わった。これを背中に装備し、両肩から延びる二門のレールガンで砲撃を行うのだ。

 紫夜はイクスザラのマスク内のコンピューターと繋がっているPCにレールガンのデータを入力する。すると、PCからレールガンの名前を求められた。

(そうだな。いつも通りバスク語で・・・)

 紫夜はスマートフォンの辞書アプリを開き、言葉を検索する。

(バスク語で「砲」は「pistola」。うん、このレールガンは「ピストラ」にしよう)

 PCに「ピストラ」と入力したレールガンのデータをマスク内のコンピューターに送る。これでイクスザラはレールガン「ピストラ」を使えるようになった。

 一通り作業を終えた紫夜は、スマートフォンを操作し、SNSアプリを開く。前回の戦闘以来、一度ロボットが出現した場所に再度ロボットが出現する可能性があることを認識した紫夜は、一度戦闘したことがある場所を重点的に、どこかでロボットが出ていないか情報を集めていた。

(コンテナターミナルはなし。次は金属加工工場)

 以前砲撃型のロボットと交戦した金属加工工場の近くの投稿や情報を集める。すると、画像付きの複数の投稿が彼の目に入った。その画像に映っているのは以前ロボットと交戦した工場とそこを動き回る砲撃型のロボット二体と見たことの無い装備を右腕に取り付けたロボット一体だ。

(また一度出た場所に・・・。しかも、前よりも数が多いし、新しい装備のロボットまでいる。まぁ、とりあえずいくぞ)

 紫夜はすぐにイクスザラのスーツに着替え、アーマーや武装を装備すると、防空壕を後にし、ロボットが出現した金属加工工場へと向かった。

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