006 見つけた!イクスザラ

(とりあえず向かわなじゃだけど・・・)

 ロボットが現れ、すぐにでも現場に向かいたい紫夜だったが、問題がある。まず一番使い慣れている装備である《エラビレラ・アニゼコ》は前回の戦闘で内部が故障してしまい、現在修理中であった。ロボットに内蔵された爆弾を覆う装甲を引き剥がすために、この装備が使えないのは痛い。

(どうしよう・・・。ワイヤーで引っ張って、装甲を剥がす? いや、こっちにそこまでの力はないし・・・)

 彼は防空壕の中に置かれているたくさんのダンボールの中に目を通していく。紫夜はあるものに目がとまり、それを手に取った。ダンボールから出てきたのは片刃の斧。これは以前の戦闘でロボットから鹵獲した装備を改造したものだ。当時、ロボットの腕に装着され、高周波振動した刃を持つ斧で建物を破壊していた。それを鹵獲した紫夜は解析すると同時に、イクスザラの装備として使えるように改造したのだ。

 装備名アサマツ。バスク語で「斧」を意味する。高周波振動する刃渡り四十センチの刃で対象を叩き壊す。テストの際に近くの大木を一撃で切り落とした。峰の部分は頑丈な素材のカバーで覆われた大型のバッテリーになっており、こちらを鈍器として打撃を与えることも可能になっている。

(でも、これで装甲の隙間をピンポイントで切れるかな。無理じゃないか、刃は大きくて、振動もするから、下手すると中の爆弾に衝撃が走りかねない・・・)

《アサマツ》を使うか悩む紫夜。

(あ、あそこって確か海のすぐそばだよね。なら)



 土曜日から日曜日に変わろうとしている真夜中。大量のコンテナが置かれている東京のとある港。深夜ということもあって、人影は全く見られない。そんな中、一体の武骨な人型ロボットが徘徊するように歩き回っている。何が目的なのだろうか。

 そのロボットが体の向きを変えて、前をに歩みを進めたとき、背後から何者かがロボットに向かって高速で接近してくる。彼はロボットのすぐそばまで接近すると、手にした斧を振り上げ、そのままロボットめがけて振り下ろす。振り下ろされた斧はロボットの右肩に当たり、ロボットの右肩から先は切断された。

 ロボットは右肩から先を切断した相手を視認する。その相手は片手斧アサマツを手にしたイクスザラだ。


「どうやって情報手に入れてやって来るかわからねぇから、一回出た場所なら警戒して出てくるかもと思って、ここで適当に歩かせてたけど、とりあえず来てくれたな。あれか、俺らの邪魔してる奴」

 港からやや離れた建物の屋上から、ワイルドな風貌で二十代半ばくらいの男性が双眼鏡で、イクスザラとロボットが交戦する様子を見ていた。

「なんだあれ。戦闘服みてぇだけど、なんかコスプレにも見えんな。警察とか自衛隊の装備にしちゃあなんか不自然だよなぁ」

 彼はそのまま双眼鏡でイクスザラが手にしている武器に目を向ける。

「てかあれ、うちのやつじゃん。盗んで使ってんのかよ」

 彼は一旦双眼鏡から目を離すと、ポケットからスマートフォンを取り出して、操作した。スマートフォンが映し出した映像はかなりノイズがかかっている。ほとんど見えない。

「やっぱりカメラが使えねぇ。あいつが関係してるのか? でも、どうやって・・・。さっきの衝撃で壊れでもしたのか?」

 スマートフォンを操作し、画面には新たなウインドウが表示される。そこには「自爆しますか」という文章が表示され、その下には「Yes」「No」というボタンが表示されていた。

「カメラがダメなら、こっちはどうだ」

 彼は「Yes」のボタンを押す。本来ならば、これでロボットはすぐに自爆する。しかし、爆発音がいつまで経っても聞こえてこない。焦って彼は双眼鏡でイクスザラとロボットを見る。

「は、何で? 何が起きてんだ? 不具合? いや、そんなはずはねぇ。ちゃんと事前に確認したし。なら、どうやって自爆止めてんだよ」

 スマートフォンに表示された「Yes」のボタンを連打しながら、イクスザラとロボットの戦闘を双眼鏡で再び観察し始める。


 ロボットと交戦している紫夜は、刃を高周波振動させている《アサマツ》を構え、こちらに接近してくるロボットの右足をすれ違いざまに《アサマツ》を叩きこみ、右足を切断する。右足を失ったロボットは立つことが出来なくなり、そのまま地面に倒れこむ。

(この頑丈な装甲で覆われた四肢を一撃で壊せるのか。想定以上だ)

 容易くロボットの右手足を破壊した《アサマツ》を見て思いにふけっていると、倒れこんだロボットは残った左腕と左足を使い、匍匐ほふく前進で紫夜の方へ近づいてくる。

(やっぱり《アサマツ》は威力が高すぎて、装甲だけを切り取るなんて無理だ。いつもみたいに自爆装置を凍結させられない。だから)

 紫夜は海を背にして、後ろ歩きを始める。それにロボットが匍匐ほふく前進で付いてきた。

(うん、このままいけば)

 そのまま歩き続け、紫夜の足はあと一歩歩けば、海に落ちるところまでやって来た。ロボットは半壊しながらも紫夜に近づいてくる。そして、手を伸ばせば紫夜に触れるところまで来たロボットは彼に向かって腕を伸ばす。

(今だ!)

 それを見た紫夜は一瞬でロボットの背後に回り、手にした《アサマツ》を振り上げる。《アサマツ》のみねをロボットめがけて思いきり振りかぶった。《アサマツ》は手を伸ばしている最中のロボットにヒットし、《アサマツ》の打撃によってロボットは吹き飛ばされ、そのまま目の前の海へ落ちて、沈んでいく。

 直後、紫夜はバックルの妨害電波発生装置の電源をオフにした。すると、その瞬間、目の前の海から巨大な水飛沫が上がる。ロボットが海中で爆発したのだ。

(爆発させないことしか今まで頭になかったけど、被害出さないように爆発させるのも今後はアリかも)

 水飛沫が消えたのを見届けた紫夜は周囲の様子を確認しながら、誰にも見つからないように港を出る。

(あのロボットは何が目的だったんだ? 特に何かを壊した様子もない。しかも、場所は前にもロボットが出たところ。何か不自然だ・・・)


「は、なんで今頃自爆すんだよ? てか、風切が言ってた通り警察でも自衛隊でもないやつに今までにやられてたってことかよ。しかも、うちのもんパクって」

 双眼鏡でイクスザラとロボットとの戦闘を観察していた男は、スマートフォンを操作し電話を掛ける。

『火神、どうした?』

「お前の言う通り、警察じゃなかった。ただ無力化して倒したのは、なんかカラス?みたいなコスプレしたやつだった。しかも、うちの近接型のアックスを使ってたんだよ」

『その話の内容から、目視で確認してから爆発で葬る予定はダメだったのか』

「あぁ。突然カメラにノイズ入ってきて、自爆させても自爆しない・・・。いや、海に落とされたら爆発したな」

『まぁ、あの個体は別にあってもなくてもどうということはないし、今まで俺たちの邪魔をしてきた存在を把握できたのは十分な立派な成果だ』

「そう言ってくれると嬉しいわ」

『とりあえず一旦戻ってこい。詳しい話は後で聞く』

「はいよー」

 男性は電話を切り、建物の屋上から立ち去る。

「そうか、あのカラス野郎が今まで邪魔してたのか。あいつがいなくなれば、今まで通りに事を勧められるってわけだ」

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