第2話 何が目的なのか
005 誰が邪魔をし、誰が奪っている?
「今回で五件目。また急にカメラの映像や音声が途絶えて、こっちからの通信を受け付けなくなった。んで、現場に行ったら、自爆してないぽかった上に、もう警察が駆けつけてて、押収されちまったみたいだ」
オールバックで二十代半ばくらいのワイルドな風貌な男性が何やら報告しているようだ。それを長髪で眼鏡をかけた男性が聞いている。
「またか」
「そうなんだよ。しかも、今回やられたのは初投入の砲撃型。やべぇよな?」
「あぁ、あの砲の技術が知られるのはマズいな。エンジン部はブラックボックス化させて、簡単に中身がわからないようになっているとはいえ、もし完全に解析されれば、下手すると軍事力に革命が起きるぞ」
「だよな。マズいよな」
「・・・」
「・・・」
沈黙が生まれるが、しばらくすると、長髪で眼鏡をかけた男性が質問を投げかける。
「お前はここまで起きたその五件をどう思う?」
「あ~ん、そうだなぁ。多分、警察が特殊装備とかで無力化でもさせてから押収してんじゃねぇのかなって思ってる」
「私はもしかしたら警察が無力化しているのではないと思った」
「警察以外の誰がこんなことが出来んだよ? 日本で銃弾弾くようなロボットに対抗できるのなんて警察と自衛隊ぐらいだろ」
「それはわからない。ここ最近はあまりないが、最初の一件目が起きてからも、警察に何度か見つかった。それは内蔵されたカメラで確認できたし、その度にちゃんと自爆させ、居合わせた警察官を全員葬った。もし警察に無力化できる装備があるのなら、何故そのとき自爆を許し、警察官を何人もみずみす死なせたんだ? 一件目でこちらのカメラやマイク、自爆を封じた上で無力化に成功させているにも関わらず」
「じゃあ、警察には無力化する技術がなくて、これまで誰かが無力化したのを警察が押収していたってことか?」
「仮説だがな。どちらにせよ、自爆を封じられて、本体が残るようなことは避けなければならない。そうしなければ、今後新技術を投入することが難しくなる」
「そっか。じゃあ、どこの誰がどうやって無力化してるか突き止めなきゃなんねぇな」
「そうだが、どうすれば」
「う~ん、そうだ。適当な個体を一体くれよ。装備も押収されて大丈夫なやつで」
「構わないが、何か策があるのか?」
「まぁな、とりあえず」
大学のオリエンテーション期間の土曜日。この日は登校日ではなく、
解析を一通り終えた頃、時間は夕方の五時。持ち込んだ自作PCに撃ち込まれた解析データを見て、紫夜は驚きを禁じ得ない状態にあった。
(途中からまさかと思ってたけど・・・。これレールガンだ)
二つのレールに膨大な電力を流し、レール間で発生させた磁界の力により弾体を打ちだす装置であるレールガン。火薬が不要で、高い威力を誇るものの、耐久性の高い砲身や膨大な電力を供給出来る装置が必要といったいくつかの問題があることから、兵器として実用化にした国は現在どこにも存在しない。そんなどこの国も実用化していない装置が目の前にある。
(ありない。けど、火薬は使われてないし、弾丸はアルミニウムを加工したもの。砲身はチタン合金で出来てて、冷却装置も備えられている。ちゃんと砲身の問題はクリアされてる。肝心の電力は解析できなかったバックパックがもし膨大な電力を生み出せるというのなら、これは間違いなくレールガンってことだ・・・)
紫夜の技術ではバックパックの中身を十分に解析することが出来なかった。ただ、その中身はガソリンで動く、発電機であることまでは突き止めていた。
(今まで可能な限り、あのロボットのパーツや装備は鹵獲して、解析していたけど、どれも既存の技術を洗練したものだけだった。こんな画期的な設計があるのかと感銘を受けたこともある。でも、これは・・・)
その技術に驚く彼は同時に恐怖を覚えた。
(こんな現代科学の問題を克服した代物を実用化しているってことは、あのロボットを作って運用している組織はとんでもない技術力を持っているってことだ。これからこのレールガンに匹敵、それ以上の技術で作られたロボットと戦うことになるかもしれない・・・。いけるのか、自分)
紫夜はPCの前で硬直する。そんなとき、彼のスマートフォンから着信音が鳴り、我に返った彼は着信内容をすぐに確認した。
『あれからどうだ? もし少しでもやりたいと思ったことがあったら、教えてくれよな。一緒にたっぷり時間を掛けて考えようぜ』
工学研究会の部長の松木からのメールだった。ここ一週間、イクスザラのことばかり考え、学校以外の時間は装備の修復や鹵獲品の解析に割いており、サークルのことなど頭になかった。
(あぁ、そうだった。研究テーマどうしようかな・・・。でも、どうせ没になりそうだし)
そう考えた彼は鹵獲した大砲に目を向ける。
(いっそレールガンとか。いや、ダメだ。現物を元に研究なんかしたら、絶対バレるし、もしバレて広まりでもしたら、大変なことになる。真面目にやりたいこと見つけて、それに取り組まなきゃ)
彼は分解した大砲を片付けようとする。そこで紫夜はあることを思いついた。
(これ・・・使えないかな・・・?)
そう思った彼は時計を見る。十七時を過ぎた頃。今日はこの後予定がなく、明日も学校が休みで、時間はたくさんある。紫夜は防空壕内にあるダンボールから様々な部品を取り出す。
(とりあえずこれだけあれば動かせるかな)
紫夜は大砲とそのエンジン部を改造し始める。
夜の二十一時を過ぎた頃、紫夜は防空壕のある物置の前に自作PCを持って座っていた。目の前には改造を終えた二門の大砲とそれを繋ぐエンジンが置かれており、自作PCはそれらに配線を通して繋がっている。これから紫夜はこの大砲の砲撃テストを行うのだ。彼はあれから自作PCを使ってエンジンが稼働するように改造を施し、データ採取のための配線をエンジン部や砲身に取り付けていた。
(とりあえず設定はほとんどいじってないし、とりあえず撃てるようにしただけ。だから、こないだ戦ったときと同じ威力が恐らく出るけど、ここなら問題ないよね)
彼がいるのは人里離れた山の中。周りは背の高い木々に覆われている。人が来ることはほとんどなく、見られることも怪我をさせることもない。彼は自作PCの画面を見つめる。
(まずエンジン稼働)
彼が自作PCのキーを押すと、地面に置かれた大砲のエンジン部から轟音が鳴り響く。PCの画面は、この大きさの発電機では到底発生できないほどの電力を、このエンジンが今生み出していることを表示している。
(うわぁ、レールガンに使うほどだから、相当な電力なのは予想していたけどここまで発生させるのか。とりあえず不具合は起きてない。じゃあ、このまま発射するぞ)
紫夜はPCのキーを再び押す。その瞬間、二門の砲門から高速でアルミニウムの弾丸が発射される。砲門から煙が上がると同時に、大砲とそれを繋ぐエンジンは砲撃の反動で宙を舞い、地面に叩きつけられる。
(うわ、マズいマズい!)
紫夜は急いでPCを操作して、エンジンの電源を落とす。強い衝撃を受けた大砲が誤射を起こさないためだ。
(反動は来ると思ってたけど、これほどとは・・・。あ、弾丸は!)
紫夜は弾丸が放たれた方向に目を向ける。すると、弾丸はすぐそばの大木に当たったようで、木には大きな穴を開いていた。それだけではなく、その木の奥にそびえ立つ木々にも大きな穴を開いていた。穴が開けられた木々は次々と倒れていく。発射された弾丸は複数の大木を易々と貫通するほどの威力を有しているようだ。
(すごい威力・・・。まぁ、工場を破壊しているぐらいだから当然か)
その威力に驚いていた紫夜は地面に転がった大砲を肩に担ぐと、そのまま物置の中の防空壕へ向かう。砲撃テストは終了した。その途中、ポケットからスマートフォンを取り出し、SNSアプリを開き、タイムラインを眺める。
(やば、今日全然見てなかった。何も起きてないといいけど・・・)
そのとき、彼はある投稿に目がとまる。その投稿内容は撮影場所が記載され、十秒程度の動画が添付されていた。動画内容はコンテナが大量に置かれている港で武骨な人型ロボットが歩き回っている。
(あれ、ここって・・・)
ロボットが動き回る場所に見覚えがあった。そこは以前イクスザラとしてロボットと交戦した場所だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます