004 イクスザラから紫夜へ

 紫夜しやはバイクを走らせ、山奥の空き家の物置に到着した。ここからイクスザラの装備を地下の防空壕に置き、原付に乗り換えて帰宅する。

 まず物置の地下の防空壕に来た紫夜は担いできた大砲付きのバックパックを床におろした。その後、イクスザラの装備を一通り取り外し、ダンボールにしまう。ただ、一部傷や破損が見られる装備は別の袋に入れていた。これらはアパートに持ち帰り、補修作業を行う。今回は右肩のアーマーの先端が折れていた。そのアーマーを彼は袋にしまう。

(今回は吹っ飛ばされたから、そのとき折れたのかな)

 アーマーや武器などの装備を一通りダンボールの中にしまうと、紫夜は最初にここに来た時に着込んでいたウインドブレーカーを着て、破損した装備が入った袋を手にして、防空壕を出る。その後、工場地帯から乗ってきた大型バイクに大量のチェーンをかけて、ブルーシートで覆う。やり忘れたことがないかを確認した彼は空き家の前に置いてある原付に乗ると、物置を後にして、自室のあるアパートに向かった。


 深夜一時を過ぎた頃、紫夜は破損したイクスザラの装備が入った袋を手にアパートの自室に戻ってきた。アパートに着くと、部屋に袋を置き、ウインドブレーカーを脱ぐと、イクスザラのプロテクターを取り外し、体にピッタリと張り付いていたスーツを脱ぐ。そのまま、一旦ジャージに着替えながら、大学からオリエンテーションのときに渡されたプリントを見る。明日正確には今日の朝から始まる学校の準備をし始めた。オリエンテーションは朝八時五十分から。八時間足らずでもう学校が始まっている。

(そうだ、明日も結構早いんだ。早く寝ないと)

 紫夜は学校に提出するプリントなどをリュックにつめ終えると、シャワーに浴びる準備をし始める。シャワーを浴びれば、後は寝るだけであった。

(疲れた。さっさと浴びて、寝よう)

 しかし、突然自室のシャワールームに向かう紫夜に強い吐き気が襲う。あまりの吐き気の強さに立っているのが困難になり、その場に倒れてこんでしまう。紫夜はそれでも腕を伸ばし、体を引きずって移動する。移動中、何度か吐きそうになるのを堪えながら、紫夜はシャワールームではなく、トイレに向かった。そして、トイレの便器にしがみついた紫夜は、便器に向かって思いっきり吐いた。声を上げながら、とにかく吐き続けた。

(またかよ・・・)

 イクスザラとして活動したその日、彼は家に帰ると、必ず吐いてしまう。吐き出している最中、彼の頭の中にはイクスザラとして活動している中で抑圧していた様々な不安や恐怖が湧き出てくる。ロボットがもしかしたらいきなり爆発で死んでしまっていたんじゃないか。ロボットとの交戦でやられて殺されていたんじゃないか。警察に見つかって、人生が終わってしまうんじゃないか。そんな不安や恐怖をイクスザラとして活動する前に出来るだけ考えないように彼は心の中にしまい込む。しかし、しまいこんだ不安や恐怖は活動を終えて、アパートつまり日常に戻った瞬間に無意識の中から出てきてしまい、体は反応を起こす。

(くそ! くそ! ちゃんと終わった! 今無事に生きてる! 誰にもバレてない! 考えるな! もう終わった! 大丈夫!)

 しかし、そう考えることをやめようとしても、逆に不安や恐怖は強くなり、紫夜は吐き続ける。

 それが何度も頭の中をかけめぐり、吐くのが収まったのはそれから二十分後のことだった。

(これでやっていけるのかな・・・。でも、自分しかやれないから、やるしかないよ・・・)

 紫夜が人一倍体を鍛えて、知識を蓄えて、装備を作っても、彼は普通の二十歳の大学生でもある。戦うことへの不安や恐怖をそう簡単に受け入れられるほど心は強くない。

(怖いよ、ホント怖い。いつかこんなことしてるうちに絶対死ぬんだと思う。でも、僕がやらなきゃ人が死ぬからやらなきゃ)

 彼にはどこか憑りつかれたような義務感と責任感が溢れていた。

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