003 イクスザラ/砲撃型ロボットとの交戦

 紫夜しやはイクスザラとしてロボットと交戦して、無力化に何度かすでに成功している。だから、ロボットを確実に無力化する方法も知っているし、そのための装備も開発した。

 だが、それでも何度頑張っても緊張感は拭えなかった。


 夜の十一時を過ぎた頃、イクスザラとなった紫夜は大田区の工場地帯の付近までやってくる。出来るだけ人に見られないような道を通ってきたため、思いのほか時間がかかってしまった。彼は工場地帯の手前でバイクを停める。そこからセンサーが収集した熱反応や生体反応を元に誰にも見つからないように物陰に隠れながら、工場地帯を探索する。紫夜がSNSで得られた情報は大田区の工場地帯の何処かというのことだけなため、こうしてしらみつぶしに探していく。

(こっちはいない。こんな時間だからそんなに人もいないし、簡単に見つかると思っていたんんだけどな)

 工場地帯の建物は高いものが多く建ち並び、周囲の見通しが悪く、目視での探索に困難を感じさせる。例のロボットからも熱反応は出るため、熱反応を頼ろうとしたが、各工場の内の機械が稼働しているため、複数個所から熱反応があり、センサーに依存した探索も難しい。そんな紫夜は周囲に誰もいないのを確認する。

(よし、誰もいない。上から探すか)

 すると彼は右腰に装備した《ソカ・ピストラ》を手に取り、自分のすぐそばにある建物の屋根にめがけて、ワイヤー付きの鉤爪を発射する。鉤爪は見事に建物の屋根に引っ掛かったのを確認すると、紫夜は鉤爪から延びたワイヤーを掴んで、建物の壁に足をつけ、ワイヤーを使ってロープクライミングのように壁をスイスイと登っていく。彼の体はイクスザラのスーツを着ていて、それなり重量があるのだが、紫夜はそれを感じさせないほど身軽に登っていった。彼はそれほど体を鍛えこんでいる。

 壁を登り、建物の屋根の上に到着すると、ワイヤーを回収しながら彼は辺りを見渡した。地面にいたときよりも随分と見晴らしがいい。紫夜は建物の上から周囲を一通り見渡すと、他の建物の屋根の上に向かって飛び移る。ある程度飛び移っては周囲を見渡す。この繰り返しだ。

 紫夜が建物の屋根の上から周囲を見渡していると、この工場地帯の中では高さのある建物の壁が爆発するのを目撃した。それも一度だけではない、続けざまに何度も壁が爆発していき、建物の壁に穴が開いていく。

(しまった! 遅かったか! しかも、爆発が複数。敵は多いか)

 紫夜は建物の屋根を次々と飛び移り、その爆発のあった建物へと向かう。


 紫夜は爆発のあった建物の近くまで来ると、一旦地面に降りて、地上からその建物へ近づいていく。マスク内のモニターには一切生体反応は見られない。深夜ということもあり、建物には人がいないのか、それとも爆発でもうすでに亡くなってしまったのか。

(まだ誰も死なないでいてくれ!)

 彼が目標の建物のすぐ近くまでやって来ると、動いている熱反応をセンサーが捉える。同時に何か機械の動く音が聞こえてきた。工場にある機械の音ではない。まるで動き回っているかのように音は大きくなったり、小さくなったりを繰り返している。紫夜は物陰からこっそりと動いている熱反応が見られる方向に目を向けた。

(今回は合ってたか・・・)

 彼が目にしたのは二メートルほどの二足歩行の人型ロボット。銀色で武骨なボディのそのロボットを彼は何度か目にし、交戦してきた。だが、

(なんだあれ・・・)

 そのロボットの背中から細長い二門の大砲が延びている。そのロボットが体の向きを変えた瞬間、背中をよく見ると、何やら外付けの大型バックパックに二門の大砲が左右に取り付けられていた。紫夜が注意深く観察していると、ロボットの背中にある大砲が動き出しして、砲口が建物に向けられる。バックパックから大きな音を鳴り、二門の大砲から何かが勢いよく発射される。発射された物体は建物の壁に着弾すると、爆発が起き、壁に大穴を開いた。

(複数体のロボットによる自爆じゃない。これは一体のロボットによる砲撃だったのか)

 撃ち終えたロボットはそこから数メートル動くと、再び建物に向かって砲口を向ける。

(まずい! これ以上撃たれたら、建物が完全に崩落する。止めなきゃ!)


 紫夜は物陰から出ると、すぐにロボットのそばまで走って近づき、砲撃準備に入っているロボットの背後に回る。彼は《ソカ・ピストラ》を砲身に撃ち込み、鉤爪を砲身引っ掛けった後、鉤爪から伸びるワイヤーを砲身に巻きつけた。

 紫夜に気づいたロボットは後ろを振り返ろうと体を動かすが、彼はその力を利用して、括りつけたワイヤーを引っ張る。すると、ロボットは転倒し、砲口は真上の空に向けられた。ロボットのバックパックから今にも弾けそうな音がする。

 すると、砲口から物体が発射されたが、砲口の先は空。どこかに当たった様子はしない。

(よし、倒れてるならこのまま一気にいく!)

 紫夜は左腕の《エラビレラ・アニゼコ》からブレイドを展開し、振動させる。その高周波振動する刃を仰向けに倒れているロボットの右肩と胴体の関節部に当てた。ロボットが必死に立ち上がろうとしている中、刃はじりじりと関節部を切り裂いていく。これまでの経験から紫夜はこのロボットの装甲が拳銃の弾を何発も跳ね返すほど頑丈なのはよく知っている。しかし、交戦してから知ったことがある。それは関節部がその頑丈な装甲に覆われておらず、紫夜が自作した高周波振動する刃物でも十分切断可能だ。彼は普段このロボットとの交戦ではまず四肢の関節部を切断し、動きを封じる。

 右肩の関節部を切断したところで、ノータッチだった左腕と両脚でロボットは何とか立ち上がった。

 紫夜は一旦距離を取る。ロボットは彼の方へ向かって歩み寄ってくるが、彼はそれに臆せず《エラビレラ・アニゼコ》の空気銃の砲口をロボットの右足の股関節に合わせた。紫夜は《エラビレラ・アニゼコ》の空気銃を何発もロボットの右足の関節部に撃ち込む。対象が動いているため、弾は何発か外れてしまうが、ほとんど関節部に命中している。ロボットが紫夜のすぐそばというところで、約三十発程度だろうか、鉄の弾丸が撃ち込まれた右足の股関節が弾けた。それにより右足を失ったロボットは立てなくなり、そのままうつ伏せに倒れる。

 紫夜はチャンスとばかりにそれなりに重いスーツを着ていることを思わせないほどの軽快な動きで、ロボットの背中に乗り、左の股関節に《エラビレラ・アニゼコ》の振動させたブレイドを当てる。このまま左足を切り離して、ロボットの自立や歩行を不能にさせる狙いだ。だが、ロボットのバックパックから音が聞こえ、それ段々と大きくなる。

(え、まさか、撃つのか)

 彼が砲身に目を向けると、砲口は地面に向けられていた。それに気づいたときにはもう遅い。砲口から物体が発射され、ロボットとその上に乗っていた紫夜は吹っ飛ばされる。

(いてて)

 紫夜は自身の装備へのダメージを確認した後、咄嗟にロボットの方を見る。ロボットは頭と胴体、左腕、背中のバックパックと大砲のみになりながら、床に仰向けに転がっていた。途中まで左の股関節を切断していたため、爆発の衝撃で左足が吹っ飛ばされてしまったようだ。左腕だけで体を起こすのは無理だろう。

 だが、バックパックと二門の大砲は生きている。次の砲撃は可能だ。それを防ぐために彼はロボットの胸部の装甲の隙間に《エラビレラ・アニゼコ》のブレイドを当てる。ロボットは残った左腕でそれを振り払おうとするが、紫夜は上手くかわしながら装甲の隙間を切り裂いていく。

 すると、胸部装甲は剥がれ落ち、ロボットの胸部の中が露わになる。そこには複雑な配線が絡み合い、その奥に黄色と黒のラインで塗装された爆弾のようなものが見えた。

(おけ。決めるぞ!)

 紫夜はイクスザラの右腕のアーマーにあるボタンを押す。すると中からある装置が現れる。これは液体窒素の発射装置。通常、ほとんどの爆弾は液体窒素によって凍結されることで、作動しなくなり、爆発の心配が無くなる。いつも紫夜はロボットの動きを封じると、次に内蔵されている爆弾を無力化させて、自爆を防ぐ。彼はその液体窒素発射装置の噴出口をロボットに内蔵された爆弾に向けた。

 装置から何発もの液体窒素のかたまりが放出され、ロボットの爆弾とその周りを一瞬で凍らせる。液体窒素が爆弾に大量にかかった。もうこれで爆発の心配はない。

 しかし、それでもロボットは動こうと頭から音を立てる。どうやら頭部にはメインコンピューターがるようだ。すると、紫夜は左腕を思いっきり振りかぶり、《エラビレラ・アニゼコ》のブレイドをロボットの首に当てて切断する。胴体とバックパック、二門の大砲だけになったロボットは機能を停止したのか、残ったパーツから音が聞こえなくなり、全く動かなくなった。 これでロボットとの交戦及び無力化は完了だ。

 動きを封じてから、胸部に内蔵されている爆弾を無力化、そして各部に信号を来る頭部のコンピューターを繋ぐ首を切断する。これが紫夜、イクスザラのロボットの無力化の方法だ。最初から首を狙わないのは、万が一メインコンピューターのある頭部を失ったことで、メインコンピューターから信号が送られなくなり、本体が機能停止したと爆弾が判断して、爆弾が爆発をするかもしれないという可能性を考慮し、頭部の切り離しは最後に行う。

(ふぅ、終わりだ)

 すると、紫夜は《エラビレラ・アニゼコ》のブレイドを完全に動かなくなったロボットの背中と二門の大砲を備えたバックパックの接合部を切断していく。彼は戦闘後、ロボットを調べるためにこうして無力化したロボットのパーツを回収するのだ。今までの交戦で全身の各パーツは既に回収して調べはついていたが、今回この二門の大砲とそれを繋ぐバックパックは初めて見た。そのため、彼はこの大砲とバックパックを調べるためにどうしても回収しておきたい。

 その行為はイクスザラの意匠にも取り込まれたからすのように死んだ獲物を貪りつくす姿を彷彿ほうふつとさせた。


 紫夜はそれらを切り離すと、全体をワイヤーでくくりつけ、背中に担ぐ。そして、紫夜はこの場を後にした。残ったロボットのパーツは警察がやってくれるだろう。正直、毎回紫夜が全て回収しても処分に困る。それに爆弾を無力化させたため、回収しに来た警察が命の危機に陥ることはない。

(とりあえず今回は誰も死ななかった)

 紫夜は安堵あんどし、工場地帯の近くに停めておいたバイクのところまで来た。辺りに人は全くいない。紫夜はイクスザラのマスクに搭載されているセンサーを使い、担いで持ってきたバックパックをスキャンする。

(よし、大丈夫だ)

 彼はバックパックに追跡装置やGPSの類がないのかを調べていた。この後、バックパックを防空壕に持ち帰るのだが、回収後、ロボットの製作者に追跡装置やGPSの類でイクスザラの装備の隠し場所を特定されるのを防ぐために。

 それ終えた彼はバイクに乗って、警察が来る前に猛スピードでその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る