第11話 姉の新しい門出のようなもの

 碧はオータムズ関連のCDをすべて売り払った。新作アルバムやスペシャルアルバムなども含まれていたため、割と良いお金になったとの事。

「いくらで売れた?」

「五千円」

「おお、良いんじゃない?」


思い立ったら吉日とばかり、ネットを利用せず直に駅前の中古品売買のチェーン店に持ち込んだのだった。

「日照時間が短くなる季節に備えて、色々調べたの」

「へえ、なにを?」

「失恋の克服方法よ」

「ほーう」

「無理に忘れようとすると良くないんだって。だから、私今でもオータムズの曲をハミングしたりしてるけど、無理に止めない事にしたんだ。仕方ないよね。私にとっては音楽とオータムズは同義語だったんだから。CDが手元になくなった分、オータムズの曲聞きたくなったら自分で歌うわ。音源ダウンロードしたら元の木阿弥だし」


「ふーん、そっか。歌いたいのならカラオケいく?」

「いや、伴奏付きでわざわざ歌うのは……。でもカラオケ自体は良いね」

「じゃあ、明日にでも行く?私、予定空いてるけど」

「あ、そうだ。じゃあ、響子ちゃんも一緒に行けないかな?オタク叩きの標的にされて傷ついたでしょ。私がカラオケボックス代払うから。飲み物とフライドポテトくらいなら注文していいよ。歌って乗り越えるのよ」

「そ、そう。そういう事なら響ちゃん誘ってみる」


 部屋に戻ると、早速瑠璃は響子にスマホで電話してみた。

「お姉ちゃん響ちゃんにも来てほしがってるんだけど……。響ちゃんを慰めたいっていうのは勿論大義名分でさ、実際は人を呼んで気分を紛らわせたいんだと思う」

「おーいいよー別に。まあ、ちょっとネットで叩かれたくらいで落ち込んでたらオタクなんてやってられないけどね。個人攻撃されたわけでもないし。でも、碧さんがヌカにクギ男を怒ってくれたのは嬉しかったよ」

「うーん、そう言ってくれるとありがたいけど……」

 瑠璃はそう言って言葉を濁した。


「何?なんかあるの?」

「うーん、うちの両親さ、子供には勉強させたがったけど、別に学歴至上主義とかでは全然無かったし、レベルが高い学校とか職業を美化して教えて子供を騙すような親では全然無かったのよ。だから、お姉ちゃんが大学中退するときも健康のためなら仕方ないって後押ししたし、一緒に育てられた私はお姉ちゃんみたいな思い込み無いし。お姉ちゃんの心の動きってどこから来たんだろうって思う」


「それは、姉妹で一緒に育っても性格が違うから分からない事ってあるよ。分からなくて当たり前だと思う。入院に関しては脳がストレスに弱かったんだと思うし」

「でも、お姉ちゃんどっちかっていうと勝気なひとだよ?」

「勝気な人でも脳が負担にに弱い人っているのよ。気が強いけど腰痛持ちの人とかいるじゃない。脳も体の一部だと考えれば、弱い所があっても仕方ないんだよ」

「うーんそうかあ……」

「それに、ちゃんと碧さん自分を客観視できてると思うよ」

「うん、それは私もそう思うけど……。じゃあ、明日」


碧は碧なりに頑張って生きてる、その手ごたえは瑠璃にもあった。

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