第7話 団欒しながら姉妹で問答

 夏休みに入って素麺が食卓に出ることが多くなった。でも、碧も瑠璃も素麺が好きだからそれで文句は言わない。そのことについて母が助かるわあ~と言うのが、小学生時代からの、夏休みの献立についての会話で、定石のようになっていた。

 この日も素麺を食べ終わり、母娘三人で居間でテレビを観ていた。旅番組の再放送だった。

 弁理士の父の夏休みはまだ先で、今日も事務所に妻の手弁当をもって出勤していた。


「ねえ、お姉ちゃん」

「なに?」

旅番組好きの母の邪魔をしないように、抑えた声量で瑠璃が碧に話しかけた。


「オータムズの事なんだけど」

「なにさ」

「オータムズってライブツアーやるらしいね」

「あーそうらしいね」

「お姉ちゃん行きたい?」

「なんで?瑠璃、チケット持ってるの?」

「持ってない」

「ふーん、なんだ」

「ねえ、チケットあったら行きたい?」

「行きたくないね」


「やっぱり駅弁は鱒ずしが美味しいわよね。富山県だっけ?お母さんの好みでは一番ね」

 母親が独り言のように、姉妹に同意を求めた。

「あーあれ、旨いよね。私も好き」

「私はイカめしの方が……」

 瑠璃と碧の順で、とりあえず答えておいた。少しの間、三人はテレビの食事シーンを見る。


「ねえ、お姉ちゃん」

「なんだよ」


「なんで行きたくないの。オータムズのライブ」

「うーん」

 唸った後、十秒以上沈黙して碧は答えた。

「だって実物じゃない」

「そりゃそうだよ。ライブは実物が出るもんだ」

「実物のMC聞きたくない」

「……なんで?」

瑠璃は頬杖から頬をはずした。冷房は効いているが、曲げていた肘の内側は汗ばんでいる。


が出たら嫌だから」

「ラジオは毎週聴いてるのに」

碧はむすっとした表情になった。

「あれはちゃんと放送を前提にした喋りだもん。ライブのMCみたいに集中力と体力を消耗した時の喋りだとオータムズも素が出ちゃうかもしれないでしょ。私はそれを見たくないの」


「……お姉ちゃんってオータムズのどこが好きなの?」

瑠璃は困惑しながら訊いた。

「それは、理想的なところよ」


 テレビでは初老の俳優が温泉をリポートしていた。

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