第6話 姉妹それぞれの気になる事
瑠璃の部屋にやって来た碧は真顔で話を切り出した。
「ねえ、瑠璃、瑠璃って黒魔術とか知らない?」
「はい?」
「ミッションスクールに行ってるとそんな感じの情報持ってるかと思ったんだけど、知らない?」
「えっと、知らない」
「うーん、そっか。邪魔したね」
碧はそのまま出て行こうとしたが、瑠璃は慌てて呼び止めた。
「ちょっと、お姉ちゃん!」
「んん?」
「オータムズに呪いをかけようとしてる?」
「違うよ!」
「ならなんで黒魔術を?」
「オータムズにいつまでも活動してほしいからだけど」
「そういう事だったら普通は神頼みでしょ?なんで黒魔術なのよ。黒魔術って悪魔と取引するんじゃなかったけ?」
「そうらしいね。キリスト教に悪魔はつきものだから、瑠璃詳しいかなーと思って。ネットでも調べられるんだけど、なんか画面が呪われそうでさ」
「そんな気軽に悪魔を呼び出そうとしたの?」
「うん。ファウストのメフィストフェレス思い出して」
「……お姉ちゃん、色んな意味でヤバい人になって来てるよ?」
「だって、オータムズの智紀さんが心配でさ」
「とものり?誰だそれ」
「ボーカルでアコギも弾く人」
「ああ、あの人。なんかあったの?」
「入って話す。冷房が……」
半開きのドアから体を斜めにして入ってきて、碧は後ろ手で閉めた。
「あのね、呆れないで聞いてよ。軽いノリの話なんだから」
碧は風呂上りに部屋のパソコンで動画サイトにアップされている公式MV動画を見ていたという。そこには視聴者のコメントが書き込めるのだが、ボーカルの智紀がやつれたように見えるとの文が複数あったとの事。碧は言われるまで、というか読むまで全く智紀の変化に気が付いていなかったのだが、一度気が付くと気になって仕方がなくなった。
オータムズは四人でなければダメだと常々思っていた碧は、智紀が体調を崩しているのなら、回復させたいと思ったのだった。
「そーゆ―のは普通、神頼みでしょ?別にキリスト教じゃなくても神社の絵馬とかにお願い書いてお祈りすればいいんだし」
「色々考えたんだけどさ、私は来世もオータムズの曲を聴きたいわけよ。オータムズは健康なだけでなく永遠じゃなきゃダメなの。でも寿命を延ばすのって神様とかより悪魔の方が得意そうじゃない?それにファウストの事が記憶にあったし」
「そこで黒魔術か。あのね、願い事と引き換えに悪魔に何か重要なものを渡さないといけなかったと思うよ。黒魔術を使ったら、お姉ちゃんが不幸になるかもしれないの。そしたらオータムズへの百年の恋も冷めるでしょ」
「ちょっと瑠璃、黒魔術に詳しくない?」
「手塚治虫のマンガのあらすじを漠然と憶えてただけ」
「そうなの?まあいいけど。あのね、業を背負うのは私だけじゃないの」
「じゃあ誰よ」
「オータムズってさ、動画のチャンネル登録してる人、二十五万人いるのよ。つまり熱心なファンでなくても曲が好きな人が少なくとも二十五万人いるって考えられるわけ。その人達から寿命を一日づつ分けてもらえば二十五万割る四で六万日以上寿命が延びるの。六万日って年数にすればすごく長い……」
「勝手に他人様の寿命減らしちゃえって思ったの?それに黒魔術がそんなに上手くいくのなら、世の中みんな黒魔術で動くことになるでしょうが!なんでそんな発想を持ったのよ?」
「自己満足よ。決まってるでしょ?」
「開き直るな」
「開き直ってこそのファンだもん。オータムズにはね、手の届かない存在であってほしいの。でも楽曲は聴きたいの。近寄れないから幸せなんだけど、でも何かをしてあげたいの。だから黒魔術でもと思って」
「とにかく、ミッションスクールでは黒魔術の事なんて教わらないから!今日の所はもう出てけ!」
「はーい。じゃあねオヤスミー」
パタンと穏やかにドアを閉めて碧は出て行った。瑠璃はなんだか疲れた。英語の勉強が終わっていて良かった。これから勉強だったら集中力を取り戻すのが大変だっただろう。
(ミュージシャンのファンってみんなあんな感じなのかな?いや、お姉ちゃんは多分結構特殊なタイプ……。近寄れないから幸せって言ってたから、理性はちゃんと働いてるみたいだけど)
そこまで考えて、おや?と思い出したことがある。
(ライブ行かないって言ってたような……。行けないじゃなくて行く気が無いって前に行ってなかったっけ?近寄れなくてじゃなくて、近寄らないから幸せって事?)
『ら』と『れ』の微妙な違いに瑠璃はもやもやし始めた。
(せっかくミュージシャンを好きになったのに、ライブに行かないと断言してたような……。私の記憶違い?それともお姉ちゃんの言い間違い?お姉ちゃんが単にファンとしては珍しいタイプなだけ?まあ、私も他のオータムズファンがどんな人達か知らないけど)
瑠璃は知らず知らずのうちに腕組をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます