第320話 へそまがりな父親


「む……」


 聞かれた方は口をへの字に曲げて渋い顔をする。その一方で義久よしひさは合点がいった。


 篠宮会長は自分の息子を取り戻したいのだ——。


 なんて歪んだ愛情なんだ。


 義久はゆっくりとした口調で総一郎に話しかけた。


「会長、そのような手段では、つかさくんの身にも危険が及びます」


「む……」


「私が交渉してみます」





 義久は前へ出ると、篠宮に向かって声を上げた。


「つかっちゃん! 降りて来てよ!」


 二階の二人は眉を寄せた。

 降りていけるわけがない。

 篠宮がサクラから拡声器をもぎ取る。


『何言ってんだよー! 今更戻る気はないよ』


 むしろ、よっくんも来ればいい。


「誰が行くか! 話がしたいから降りて来てよ!」


 篠宮はサクラにお伺いをたてる。


「一階の昇降口だけ、シャッターを開けてもいいですか?」


「ダメだ。小銃を撃って来た奴らがすぐそこにいるんだぞ。今更侵入されては困る」


「そうですよね」


 篠宮は拡声器を構えると、義久に返答した。


『ごめーん、やっぱ無理!』




「無理」じゃないだろ!


 義久は内心、毒づきながら更に声を上げた。


「会長が空爆の指示を出そうとしている! 話し合いに応じないなら、五分後に攻撃されるぞ!」





 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る