第317話 奴らがやって来る!
「無人の異世界……?」
「『島』とも言えるな。こう、ドーナツ型の島でな。中央に巨大な穴が空いていて——しかも仕組みはわからんが岸から1キロ程は水が張っていて……とにかく行けばわかる」
それより、とサクラは篠宮を窓辺に連れて行く。
「なんですか? 愛の告白ならいつでも——」
スパン!!
「痛たたた!」
「外を見ろ」
「あ、さっきも見ましたよ。あの夜空みたいなのが『ヴォイド』なんでしょう? あの中を通って、移動するんですよね」
「そうだ。既に行き先への道は開いていて、アンカーを向こうへ撃ち込んである。そうではなくて、あっちを見ろ」
サクラが指差す方へ目をやると、だいぶ日が暮れて薄暗くなって来た空を背景に真っ黒の森の影が目に入る。
「——あ」
真っ黒な森の中に、チカチカと瞬く小さな光が見えた。誰かがこちらへやってくるようだ。
「誰か——というより、奴らだな」
「ええっ? もしかして親父達ですか? 早く出発しましょうよ」
「……」
サクラは少し考え、小首を傾げる。
確かに邪魔が入るより出発したいが、いかんせんあと少し時間がかかる。
「よし、篠宮」
「はい! なんでしょう?」
「拡声器を持て」
「は?」
「なんだあれは……!」
異様なその光景に森から出て来た一行は息を呑む。
浅木博士すら茫然とその様子を眺めていた。
「これが……『ヴォイド』か……」
どこか陶然とした感嘆の声を漏らすと、赤い瞳を輝かせる。そして突然走り出した。
「おい、待て!」
総一郎が叫んだが、浅木博士は足を止める事なくただ振り返り様に、
「待てない! 今までに見たこともない現象だよ!」
と叫ぶ。
「……あの馬鹿は! 行くぞ、義久!」
「は、はい……」
なんでおっさん達はこんなに元気なんだ……?
義久はへろへろになりながら総一郎について行く。
そして鴫原校長がゆっくりと歩いて行く。
その瞳には感慨深い柔らかな光が浮かんでいた。優しげな、それでいてどことなく寂しさを感じる眼差しに、義久の運転手は首を傾げた。
「ふふ、おかしいですか?」
校長は運転手に向かってそう話しかけた。
つづく
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