第316話 君と行くならどこへでも


 サクラと篠宮が二階に上がると、制御室の前に皆が集まっていた。


 βクラスの皆が心配そうに室内を覗き込んでいるのだ。


「通してくれ」


 サクラが現れると、自然と道が開く。篠宮は側にいたウォルフをつかまえて、どうなっているのか聞いてみた。


 しかしウォルフも肩をすくめるばかりである。


「βは役には立たないみたいだぞ。六姉妹ちゃん達がひっきりなしに計算してる。エネルギーが足りないみたいだ」


「時間があればそれは解決するらしいよ。それよりウォルフ、こんな大変な事なんで教えてくれなかったのさ」


 ウォルフは咎める篠宮の顔を見ながら頭をかいた。


ワリい。こればっかりは失敗出来ないヤツだからさ。でも俺はあんたが来てくれて、すっげー嬉しいぜ」


「おっ、随分と素直じゃないかぁ」


 篠宮はウォルフの首根っこを捕まえると、ぐりぐりと頭を撫でた。


「んぎぎぎ、やめろって! だってさ、あんな未知の世界に行くんだぜ。ほぼサバイバルだし……あれ? 聞いてなかった?」


 ウォルフは篠宮の目が点になっているのに気がついた。


「サバイバル……?」


「おう、ほぼ原生林に覆われていて、文明の跡も何もない——」


 ウォルフの言葉に篠宮は床に膝をついた。


 なんて事だ!

 ゲームも漫画も、やっぱり持って来るんだった!


 しかし篠宮の事、すぐに瞳に輝きが戻る。


「いや、良いんだ。俺にはサクラさんがいるじゃないか!」


 スパン!


 小気味良い音がして、篠宮の後頭部にサクラのツッコミが入る。もはや見慣れた光景に、ウォルフは拍手した。


「また妙な事を!」


「いやいや、俺はサクラさんがいれば無人島でも異世界でも——」


 再びツッコミが来るかと思いきや、サクラは感心したように篠宮を見た。


「ほう。意外と度胸があるな。これから行くのはまさに無人の異世界だ」






 つづく

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