第315話 責任転嫁


 矛先を向けられて義久よしひさは慌てた。


「そ、それは……そう、警備部の彼が……!」


 今度は義久から指をさされて、日和田ひわだが慌てる。


「え? はっ、あの、その」


 総一郎の視線が順番に動いて行き、日和田で止まった。


「いいいいえ、私はただ……」


「ただ?」


 森の中に見慣れぬ建造物があると、報告しただけだ。それを何であるか判断したのは俺じゃない。


 日和田はそう思ったが、舌がうまく動かなかった。なにせ日本有数の産業グループの総裁が目の前にいるのだ。


 すかさず義久がフォローする為に口を開く。


「会長、ここの警備部はやや脇が甘く、位置情報システムなども改竄されております。現在彼らの身体に埋め込まれている生体端末の信号さえ——」


「義久くぅん、責任転嫁は良くないなぁ」


 笑い声を含んだ嫌味な声は彼の伯父浅木充博士のものだ。白衣をふわりとなびかせて、彼は白い舞台からビョンと飛び降りた。


「さて、皆さんはまだここにいるつもりですか?」


「どう言う意味だ?」


 総一郎が鴫原校長の襟から手を離しながら博士の方へ向き直る。


「ここがダミーなんだから、別の場所に『方舟』はあるんだってば。それに——」


 浅木博士は義久の運転手から端末をヒョイと奪った。手早く画面をタップすると、画面を皆に向けた。


「彼らの生体端末カリギュラの信号を拾えなくても、賀蔵くん達の位置を拾えば良いじゃない」


 会長直下の『掃除屋』達が、亜人達と交戦しているのは連絡が入っていたが、それ以降の連絡はない。


 皆がタブレットの画面を見ると、赤く明滅するマーカーが、この場所以外では旧校舎と新校舎の近くに集中していた。


 動いているマーカーは無い。


「こいつらはやられたというのか⁈」


「ウチの子達がすいませんねぇ」


 博士の言い方に、総一郎は掴みかかりそうになったが、博士は軽やかにそれを避けた。


 タブレットを運転手に返すと、サッサと森の出口に向かう。


「おい、待て! どこに行く?」


「だからぁ、彼らが倒れてる所にサクラ達もいるんだよ」


 博士にそう言い返されて、総一郎は憤然としながら歩き出した。鴫原校長と義久も無言で後に続く。義久は胸の中で一人呟いた。


 ——また、あそこまで戻るのか。





 つづく

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