第300話 義久の推測

 選ばれし者を清められた世界へ運ぶ舟。


 つまり、亜人あじん達を別世界へ運ぶ舟の事なのだろう——。


 義久よしひさは思わず笑みを漏らす。『方舟アーク』がカウントダウンしているのは、出発までの時間を指しているのだろう。おそらく変異テラヘルツ光『ヴィリ』の充填じゅうてんを待っているに違いない。


「カウントダウンの残り時間は?」


『は、57分ほどですが——』


「ふふふ、貴重な情報だな。よくやったぞ」


 義久は携帯端末スマートフォンに『ark 』の位置を送るように日和田ひわだに指示すると彼との通話を切った。


 再びゆったりと応接セットの椅子に座り直すと、義久は紅茶のカップに手を伸ばす。少し冷めた紅茶が彼にはちょうど良かった。


 かちゃり、と硬質な音を立ててカップを置くと、義久は鴫原校長を見た。


「さて、もう誤魔化しはできないですよ。ここの警備部が『方舟アーク』と銘打った建造物を、森の中で発見した。画像も来ている」


 義久は鴫原と総一郎とに見えるように携帯端末をテーブルの上に置く。


 そこには巨大な半円形を合わせたような白い建造物の写真があった。


「どう見ても、あなたの目を盗んで作ったとは言えない代物だ。校長も一枚噛んでいるのでしょう?」


「……はて、なんのことやら」


「とぼける気か? ……では実際に見に行こうではありませんか」


 義久は鴫原の素知らぬ態度に腹を立てた。


 ——だが、それも『方舟アーク』とやらに行けばわかる事だ。


 義久はそう考えた。


 須王サクラを筆頭に、No.6も捕まらない。捕まらないという事は、追っ手から逃げているという事に他ならない。


 逃げて、どうするのか?


 絶対に捕まらない場所へ行くのだ。


 それは——。


「『方舟』で別世界へ逃げるつもりでしょう?」


 義久のその言葉に、鴫原の眉がピクリと跳ね上がった。




 つづく




◆300話記念 オマケコーナー


 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。感謝、感謝の気持ちでいっぱいです。


 少しだけですが、オマケを付けました。良かったらご覧下さい。


◆須王サクラ…現在、カエデの所へ向かう篠宮を追いかけている。篠宮を連れて『方舟』で別世界(異世界)へ向かう事を決意。



◆篠宮司…カエデを『方舟』に乗せるため、説得に向かう。もちろん、サクラにはどこまでもついていくつもり。



◆カグラ&カナエ…旧校舎の屋上に追い詰められている。あと少しで屋上のドアが破られそう。



◆篠宮総一郎&鴫原校長…現在、職員室で対話中。総一郎が欲しいのは『ヴィリ』だけだろうか?



◆鬼丸達…旧校舎の家庭科室から『方舟』へ移動を試みる。ちなみにウォルフはリリへのどさくさ紛れの告白が成功して浮かれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る