第299話 白い方舟

 結局、浅木あさぎ課長への連絡は少し遅れた。


 日和田ひわだが命じられているのは亜人あじんの少女を捕まえることだし、この騒ぎに関係のない報告をすれば叱責されるのは間違いないからだ。


 日和田が隊員と共に調べたところ、白い建造物は野外シアターのように巨大で、かつなんらかの動力で僅かに振動している事がわかった。


 それと壁に埋め込まれたコンソール。


 日和田には動かすことが出来なかったが、高輝度パネルの画面にカウントダウンするタイマーらしき物を見つけた。おそらく残り時間を示す物。


 残り時間1:18——。


 それが一時間を切った時、日和田は嫌な予感がした。


 ——これは、報告した方がいいぞ。




「なんだと?」


 職員室の応接セットにかけながら、浅木義久あさぎよしひさは会長・篠宮しのみや総一郎そういちろう浅木充あさぎみつる博士と共に鴫原校長の淹れた紅茶を楽しんでいた。


 銘柄はマルコポーロ。


 バニラとベリーのフレーバーを楽しんでいたところへ、無粋な日和田の連絡が飛び込んできたのだった。携帯端末スマートフォンを耳に当てながら、義久はややぶっきらぼうに聞き返す。


「それで、その白い建造物がなんだというのだ?」


『は、なんらかのカウントダウンをしておりまして……それと壁にarkと刻まれております……』


「——ark ——聖櫃……方舟?」


 二人のやり取りを側で聞いていた鴫原校長の肩が僅かに震える。総一郎はそれを目にして少しだけ目をすがめたが、何も言わずに外国製のカップを口に運んだ。


 義久にはピンと来るものがあった。


「『方舟アーク』か!」




つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る