第298話 アオバヤマ警備部捜索中



「くそっ! なんだって見つからない?」


 アオバヤマの警備部の一行は、日和田ひわだを先頭に北の森の中で迷子になっていた。


 正確には迷子ではない。


 自分達のGPSもあるし、タブレット端末には自分達と追いかける亜人の少女の位置情報もちゃんと示されている。


 なのに、追いつきそうになるとその少女のマーカーはするりと移動し、警備部のメンバーは少女の影すらも目にしていない。


 一度は囲むように追い詰めたが、まるでに飛んで行ったかと思うほど別の位置にマーカーが移動する。


「ちくしょう! せめてコイツを捕まえなくては、浅木課長に合わせる顔がない……!」


 日和田は汗だくになってマーカーを追う——。もちろんこれはサクラ達が事前に仕込んだスタッフィーを使ったブラフだ。日和田達はそれを知らずに、ここには居ない六花ろっかの偽情報を追いかけているのである。


 散々、森の中を歩かされて、日和田達はついに地べたにへたり込んだ。


「隊長〜」


「う、うるさいッ! 休憩だ休憩!」


 休憩きゅうけいと聞いて、他の隊員達もホッとしたように力を抜く。おそらく篠宮会長直下の賀蔵がぞうが見たらせせら笑うに違いない。しかし彼らはへとへとになっていたし、ここに賀蔵はいない。


 誰にも嫌味を言われることもなく、彼らは思い思いに座り込んで休憩を取る。日和田もたまたま持って来たミネラルウォーターを口にしたりする。


「た、隊長ぉ……」


 いまいち元気のない声に呼ばれて、日和田が振り返ると、隊員の一人が木陰から出てきた所だった。おそらく少し離れたところで小用でもと思ったのに違いない。


 しかし彼の表情を見るに、少し昂揚している風にも見えた。


「どうした?」


「こ、この奥に白い建造物が……そんでもって、壁に『ark 』と……」


「なんだそれは?」


 疲れてはいたが、浅木課長や博士への土産になるなら、と日和田は重い腰を上げた。




 つづく

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