第297話 追われる双子


 サクラと篠宮が出て行った家庭科室の隅で、古い木製の椅子にかけながら六花ろっかとユニが小声で話している。


「どうしたの? 六花ちゃん」


「あの……あのね——実はね」


 顔を真っ赤にして、六花は自分の身体の変化をユニに伝える。


「え——?」


 思考停止。


「え?」


 まだまだ——。


 と、ユニの顔もみるみるうちに朱に染まる。


「うわ、え? あの、六花、ちゃん」


「えへへ。びっくりだよね」


 はにかむ六花を、ユニは再びぎゅっと抱きしめた。


「あの、その、なんて言ったらいいかわからないけど——ありがとう?」


「なんで疑問形なの? ユニ君らしいけど」






 屋上に飛び出したカグラとカナエはすぐにドアを押さえる。外側には鍵がないから、それしか出来ないが、カグラが黒い翼を広げるとそのエネルギーを力に変えてドアを押した。


「ぬうっ!」


 メキッと音がして鉄製のドアが歪む。


 おかしな形に嵌まり込んだドアはそれ自体が鍵のようになり、屋上への出入り口を塞いだ。


「これで暫くは持つだろう」


 内側からそのドアを叩く音がするが、歪んだドアは簡単には開きそうになかった。


「カグラ、連絡が入っている」


 カナエにそう言われ、生体端末カリギュラを開くと、『方舟アーク』に向かうように指示が出ていた。


「……まだ、空は明るいが……」


「カグラ、今の時期、日が落ちるのは早いぞ。すぐに夕闇が迫る」


「しかし『方舟アーク』にはまだ——」


 カグラがそう言った時、ドアを叩く音が今までになく大きくなった。


 ドンッ! ガッ!


 ——ドアが破られるのも、時間の問題か。


 カグラは背負った『小烏丸』の柄に手をかけた。




 つづく

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