第296話 カエデの意思


 カエデの名を出すと、一瞬にして室内の皆が固まった。篠宮に皆の視線が集まる。


「だって、カエデさんも亜人デミなんでしょ?」


「……そうだが、カエデは」


 カエデは、行かない。


なんでですか⁈ いくら皆と気が合わないからって……」


 篠宮は口籠る。

 サクラの瞳に寂しそうな色を見たからだ。


 本当は、一緒に連れて行きたいんじゃないのか?


 しかしサクラは目を伏せると、強い口調で言い切った。


「彼女はここに残ると言っている。本人の希望だ」


「嘘だ!」


 篠宮は知っている。


 本当はカエデが皆と仲良くしたがっているのを。口が悪くて、性格が悪くて、姉にコンプレックスを持っていて、お金にがめつくて——。でも、本当は友達が欲しかったと、仲間が欲しかったとそう言っていた。


 篠宮が知っている。


「俺、カエデさんを連れて来ます!」


 篠宮は家庭科室を飛び出した。


「あっ、あの馬鹿……鬼丸、後を頼む。一花いちは奴らを誘導せよ」


「はい」


 一花は返事をし、鬼丸は無言で頷いた。それを確認したサクラは篠宮の後を追った。


「まったく、世話の焼ける奴だ」




 つづく

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