第292話 思い出の物
リュックに詰めたのはたわいもないもの。『
使い慣れた櫛や手鏡。
「用意はいいか?」
「うむ。待たせたな」
「かまわぬ。お前に大切なものが出来たのは良いことだ」
そう言いながらも、カグラは廊下に神経を集中させる。教室を改造した個室は三階にあった。
「む?」
気配を感じて、カグラが勢いよく戸を開けると、そこにはユニが居た。突然戸を開けられて、彼はひどく驚いていた。
「なんだ、そなたか」
「……びっくりした……。先生達が二階の家庭科室に集まるって」
「いよいよだな」
三人は顔を見合わせると、不安を打ち消すように頷き合う。
そこへ——。
ガシャーン!
窓を突き破って黒づくめの戦闘服姿の男が乗り込んで来た。割れたガラスが飛び散る中、カグラがカナエとユニを
「先に行け!」
「カグラ!」
カナエが悲鳴に近い叫び声で兄の名を呼ぶ。ユニは部屋に戻ろうとするカナエの腕を掴んで引き止める。
「行こう! 僕らでは足手まといだ」
カナエはその言葉に胸が詰まりながらも頷いた。廊下を走りながらカグラへ呼びかける。
「カグラ、負けるでないぞ!」
狭い部屋の中で、小銃を構えた敵と対峙しながら、カグラはふっと笑った。
「我が負けるわけなかろう」
そう言いながら、背にかけてある刀——『小烏丸』を抜いた。
つづく
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