第287話 賀蔵という男


 サクラと篠宮が退場した職員室では、賀蔵がぞうが冷たい笑いを浮かべながら、部下に指示を出す。


「行け。どんな手を使ってもいい。あの女を捕らえろ。会長のご子息は丁寧に扱えよ」


 部下達が走り出そうとした時、鴫原しぎはら校長が声を掛けて彼等の足を止めた。


「あの子達には生体端末カリギュラが付いています。その位置情報システムを使えば、すぐに捕まえられますよ」


 賀蔵の部下達は一斉に上司の顔を見る。その方が確実で楽なのは明白だからだ。しかし賀蔵は顎で「行け」と示した。部下達は再びサクラ達を追う為に廊下を走っていった。


「最新のものはお気に召しませんかな?」


 スタッフィーの偽情報で引きずり回そうと試みたのだが上手くいかなかったようである。少しの動揺を隠し、鴫原が口髭を撫でながら賀蔵に問うてみる。彼は鼻を鳴らして鴫原の言葉を馬鹿にした。


「先にここの警備部が亜人あじんを追っているのだろう? なのにいまだ捕まえられんなら、そんなものは役に立たん」


 賀蔵はいかつい顔を鴫原にグッと近づけた。


「俺達人間の勘というものが一番信頼できるってもんだ」


「……一つ質問してもよろしいですか?」


 隊長は鴫原に近づけた身体を離すと、じろりと彼を見下ろした。


「なんだ?」


「あなたが追う二人は、二十年前と姿形が変わりませんが、それを疑問に思わないのですか?」


「姿形が変わらんから、あの時の恥辱が忘れられんのだ。むしろ力が沸き立つというものだ」


 ふはははと笑う賀蔵を見つめながら、鴫原は「この脳筋めが」と心の中でつぶやいた。



 つづく

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