第285話 共に生きる覚悟


「サクラさん、怖いー!」


「うるさいな」


 サクラは校舎の角を曲がって止まると、肩にかついでいた篠宮を下ろした。


「なんて無茶をするんですか!」


「あの場で暴れた方が良かったか? お前を置いて逃げ出してもよかったんだぞ」


「う、置いていかれるのはイヤです」


 篠宮は大人しく引き下がる。


「これからどうするんですか?」


「……篠宮」


「はい」


 サクラは篠宮の目を見つめた。そして一度視線をらす。何かを迷ったように視線を動かしてから、再び篠宮を見つめる。


 それからおもむろに篠宮に手を伸ばして来た。


 すらりと長い指が篠宮の両頬を包む。


「へ?」


 鼻先がくっつくほど顔を引き寄せられ、篠宮はサクラの瞳に自分が映っているのを見た。


 ——な、何? どういう状況?


 赤くなって狼狽える篠宮の頭を両手でガシッと押さえながら、サクラは言った。


「お前、私についてくる覚悟はあるか?」





「覚悟?」


「そうだ。わかりやすく言えば、この世界を捨てて、私と共に生きる覚悟があるかと聞いている」


「な、何を言っているのか……」


「先程の話を覚えているか? 物質を転送する実験のことだ」


「はあ、まあなんとか」


 それよりも篠宮は目の前にサクラの顔がある事の方が気になる。薄紅色の唇が動くたびに、胸が熱くなるのだ。


「おい、聞いているのか?」


「はぃいい……」


 いやもう、このままその艶やかな唇を奪ってもいいんじゃないか。


 ぽーっとした頭のまま、篠宮はつい自分の手を伸ばしてサクラの肩に回した——。


 瞬間、サクラの両手に力が加わり、篠宮の頭がグルンと回転した。


「いっぎゃあああ!」


「馬鹿者! 何をする気だ⁈」


「頭、頭がもげる……」


「もげてない! 私達について来るか決めろと言っている」


「つ、ついていきますってば。サクラさんの行くところならどこへでも〜」


「よく言った!」


 サクラは笑いながらバシッと篠宮の背を叩く。


「ぎゃ!……なんなんすか、もう」


「行くぞ、篠宮!」


 サクラは再び篠宮の襟首を掴んで、彼を引きずりながらずんずん歩いて行く。


「我らが新天地へ!」




 つづく

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