第284話 二十年前の因縁


 サクラはそれを聞いて、意を決したように前へ進み出た。職員室の外へ出ようと会長と鴫原しぎはらの間を通ろうとする。


 自然と鴫原は体を避けたが、通り過ぎるサクラの目の前に軍用ベストを身につけた黒い制服を着た男が立ちはだかった。


「よお、久しぶりだな」


 サクラを睨みつけるその顔に、篠宮は見覚えがあった。


「あっ、過去に行った時の——」


「あの時は世話になったな。今では篠宮会長直下のSP隊長、賀蔵がぞうだ」


 その男は篠宮がサクラと共に過去へタイムスリップした時に交戦した警備隊の隊長に間違いなかった。


 二十年の年月が彼を経験豊富な軍人に仕上げたようであった。白髪に変わった短髪、顔に刻まれたシワ——しかし鍛え上げられた体躯は年齢を感じさせない。


「ふん、またハイヒールの一撃をくらいたいか?」


 サクラにそう言われて、賀蔵はサッと顔色を変えた。彼にすれば、人前で気絶するなど後にも先にもない事であったのだ。


「あの時はよくも……」


 賀蔵は奥歯をぎりぎりと鳴らしながら、腰の警棒にその右手をかけた。


 さすがのサクラも後ずさる。


「賀蔵隊長、殺すなよ」


 会長のさりげない一言に、篠宮も義久よしひさも青ざめる。そうしてみると義久は本社側でありながら、サクラへの直接的な暴力は容認できないのだろう。或いは篠宮のお気に入りの亜人を傷つけたくないのか——。


「サクラさん!」


「来い、篠宮!」


 篠宮の叫びと共に、サクラは篠宮の襟首を引っ掴んで、身体をぐっと丸めると窓に体当たりした。


「⁈」


 轟音と共に飛び散るガラスの破片。


「ぎゃあああああああ!!」


 そして篠宮の悲鳴。


 サクラは窓を突き破って、篠宮と空中を舞う。降り注ぐガラスの欠片を避けながら華麗に着地し、篠宮を担ぐと走り出した。


「つかっちゃん!!」


 義久が慌てて破られた窓へと駆け寄る。割れたガラス窓の隙間から下を見ると、既にサクラと篠宮の姿は無く、ただガラス片が散らばっているだけだった。



 つづく

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