第283話 鴫原校長の裏切り


 サクラは目を見開いて、ゴクリと喉を鳴らした。そんなサクラの様子を心底気の毒そうに見つめて、浅木博士が補足した。


「ま、そういうことかな。『校長』はもう終わり。ここからは鴫原のお仕事ってわけだ」


「博士は相変わらずの話し方ですね。——篠宮先生、あなたがここに来た時説明しましたね。この町のスポンサーはShinomiya 以外にもいると。その一人が私です」


「校長先生はそちら側の人だったんですか!?」


 驚く篠宮に、鴫原は冷たく一瞥いちべつをくれると無言でそれを認めた。


「つかっちゃん、そうがっかりするなよ。鴫原所長はそいつらの肩を持ってくれてただろ? 今回はそれを捨てていいくらい、本社に有益な事態なんだよ」


「そんな……そんなのって……」


「酷いとお思いですか? 残念ながらそれはあなたが進む道でもあるのですよ」


「俺……?」


 鴫原に突然そう告げられ、篠宮は戸惑う。鴫原の隣にいる父親がやけに大きく見えた。


「そろそろお前もグループ内での勉強をする時だ。今まで自由にして来ただろう?」


 落ち着いたゆっくりとした口調で、父は息子に語りかける。しかしいまだ反抗期の篠宮には通じない。


「嫌だってば!」


 駄々をこねる息子の姿に、会長は軽くため息をつくと、無言で指を鳴らした。その合図で廊下に控えていた男達が走り出す。


 物々しいその黒い影に不安を覚えて、篠宮は義久よしひさの方にあれは何かと聞いてみた。義久は何も知らない篠宮に呆れつつも答えてくれる。


「聞いたことくらいあるだろ。会長直下の掃除屋——じゃなくて警備隊だ」


「ちょ、今、『掃除屋』って言った⁈」


 通称『掃除屋』。

 会長の命令を忠実にこなす特殊部隊だ。表向きは警備隊と称して会長の護衛を行うが、通称通り会長に不利益をもたらす相手を排除する事もある。


「何をする気なんだよ!」


「大した意味はない。強いて言えばここの警備部より早くことを進めたいだけだ」


 つまり、日和田達が探している六花ろっかをさっさと連れて来る気なのだろう。


「校内にいる亜人あじんを全員連れて来させる。有益か無益か判断して処分する。お前が執着するなら排除するまでだ」


 会長は淡々とそう言った。



 つづく

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