第282話 会長の隣には


 篠宮と義久が同時にその男性を指す言葉を発した。と、すると、この男性がShinomiya グループの会長にして篠宮司しのみやつかさの父親とみえる。


 やや白髪の混じった頭髪を綺麗に後ろは撫で付け、血色の良い顔には年相応の皺が刻まれているものの、溢れ出る力強さが彼をだいぶ若く見せていた。


 会長は居並ぶ面々にサッと目を通すと、サクラを見てその動きを止めた。


「なるほど。……君が例の成功例か」


「……」


 サクラはその値踏みしているような視線を正面から受け止める。


 ——ちっとも似てない。


 篠宮の柔和な雰囲気は母親譲りなのだろう。この男の持つ、大柄で剛腕というイメージは篠宮の中にはカケラも見られない。


「浅木課長、今どうなっている?」


「はっ、アオバヤマ警備部の者達が検体αNo.6を追跡中です。ここで行われていた大規模実験については先程お知らせした通り。この須王サクラが実験の中心人物のようです」


 会長は軽く頷くと、背後を見ずに手招きした。それに合わせて廊下にいた人影が職員室に入ってくる。


「補足を頼むぞ」


「ええ」


 その人物は片眼鏡に英国紳士風の髭を蓄えた鴫原しぎはら校長であった。





「校長……先生……?」


 戸惑う篠宮の目に映るのは、紛れもなく鴫原校長である。


 隣にいるサクラにそっと視線を送ると、彼女もまた身体を硬くして身構えているようだった。


 形の良い唇を震わせながら、サクラは声を絞り出す。


「鴫原校長……これはもしや……?」


 鴫原校長は無表情のまま、一つ頷いて答える。


「そうですよ、その通りです」





 つづく

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