第277話 祝福を


「サクラ先生は自分を複製出来るんですかっ?」


 再び一花いちか六花ろっかの二重奏。


「研究の副産物であるらしいけど、アイツほど成功した実験体はないでしょうね」


 レディは言葉の端に嫉妬を滲ませながら二人に教えた。そこへ、鬼丸が入って来る。


 レディは六花にウインクを一つ投げると、鬼丸の元へ行き、小声で六花の申告を告げた。鬼丸も少し目を見開くと、六花のところへ近づいた。


「——なんて言ったらいいかわからんが、とにかくおめでとう」


「え?」


「おめでたい事だろう? 違うのか?」


 六花は「違わない」と頭を振って答える。鬼丸は彼女の頭をぽんぽんと撫でると、少しだけ笑った。


「ユニとお前の子なら、めでたいじゃないか」


「あっ、そうね! いけない、忘れてたわ。おめでとう、六花」


 レディも祝福する。

 一花は——頭から湯気が出るほど真っ赤になっている。


 ——彼氏との赤ちゃん⁈


「一花も伯母さんになるのね」


「え? オバサン?」


「あなたの親戚が出来るのよ」


「ふええ……」


 パニックすぎて頭が追いつかない。熱が出そうだ。一花は熱くなる頬を押さえた。





「と、忘れてた。旧校舎に警備部の奴らが入って来たぞ」


 鬼丸が呑気にそんなことを言う。


「なんで早く言わないのよ! 六花を隠さなきゃ」


 レディが珍しく鬼丸に向かって声を上げた。一花もとっさに六花の手を取る。


「隠さなくても、勝手に居なくなるさ」


 不思議な事に、鬼丸の言った通りに警備部の者達は旧校舎の外に出て森の方へと走っていった。二階の窓からそっとその様子を見ていたレディは鬼丸の方を振り返りつつ尋ねた。


「いったい何をしたの?」


「俺じゃない。サクラが外部通信装置スタッフィーを動かしている」


「なるほど……六花のスタッフィーをあいつらは追いかけているってわけね」


「俺たちの出番は無さそうっすね」


 そう言いながら教室に入って来たのはウォルフとシュトルムだった。


「せっかくボコボコにしてやろうと思ってたのになぁ」


「暴力で追い返しても、更に大きな力でやり返されるだけだ。おとなしくしていろ」


 鬼丸にさとされてウォルフはつまらなそうに頭をかいた。ついでに篠宮の心配もしておく。


「それにしても……新校舎の方は大丈夫なんだろうな……」




 つづく

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