第276話 浅木博士の目的は


「……」

「…………」


 サクラと篠宮の脳に、浅木博士の言葉はなかなか染みてこなかった。


「なんの検査だって?」


「に・ん・し・ん」





「……」

「……にっ、にっ……?」


 混乱したサクラと篠宮が、


「にっ、ニンテ○ドーアカウント!」

「とっ、利根川水系!」

「いっ、イナズ○イレブン!」

「馬鹿者、『ん』がついているぞ」

「あははは〜しまった〜」

「わはは、篠宮はしりとりも弱いな」


 しりとりで現実逃避を図ったが、義久が白い目で二人を見ている。そして冷たく現実を突きつけた。


「何を話をずらそうとしているんだ。お前らが『六花ろっか』と呼ぶα体は妊娠している。知らなかったのか?」


「知らん? 知っていたら——」


 知っていたら、どうしていた?


 外部に漏れないよう、絶対に隠し通しただろう。


 こいつらが来るような事態にはしなかったはずだ。


 もう少し早く六花が打ち明けてくれていたら。


 サクラは歯を食いしばりながら、義久と浅木博士に対峙した。





「にっ……⁈」


 同じ頃、一花いちかとレディも六花から打ち明けられていた。


「にっ……?」


「一花、落ち着いて」


 レディにそう言われても、一花の口からは、


「ににに……?」


 としか出てこない。六花も顔を赤くして、俯きながら説明する。


「もしかしたら、なの。まだハッキリとはわからなくて……」


「須王サクラにも打ち明けてないのね?」


 六花はこくんとうなずいた。その様子を見て、レディはため息をつく。


「困ったわね。私達はそれぞれ様々な実験を施された身体だから、長期的な観察は続いているのよ。そこから人間の役に立つ部分を利用する為なんだけど……」


 だから異変があれば調査はされる。大抵は鴫原所長の元で処理されるが、今回は浅木博士まで連絡が行ったらしい。


 ——おそらく本当の受胎なのか、自己複製なのか、健診の担当者には判断がつかなかったのだろう。


「自己複製?」


 一花と六花が声を合わせて聞き返す。


「あら知らないの? 須王サクラの能力の一つじゃない。自己複製」





 つづく

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